顎変形症センター
センター長からのごあいさつ
歯やかみ合わせが悪いと、おいしく食事をすることも難しくなってしまいます。特に、顔のゆがみが気になっている方も多いのではないでしょうか。
あごが前に出ている、または小さすぎるといったあごの形の問題によって、かみ合わせがずれてしまうことがあります。これを「顎変形症(がくへんけいしょう)」といいます。
顎変形症の治療では、かみ合わせを良くするだけでなく、顔のバランスや自然な見た目を整え、健康的で美しい見た目を取り戻すことが大切です。
私はこれまで昭和大学(現在の昭和医科大学)で、1000件以上の顎変形症の手術を行ってきました。また、たくさんの若い医師たちの育成にも力を注いできました。
このたびご縁があり、総合東京病院に「顎変形症センター」を開設することとなりました。これまで培ってきた知識と技術を活かし、さらに進化させながら、より質の高い治療を目指してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
顎変形症センターとは?
顎変形症は、あごの発育に異常があったり、生まれつきのあごや顔の形に問題があったりして、かみ合わせや顔の形に影響が出る病気です。たとえば、骨格的に下あごが出すぎている「下顎前突症(かがくぜんとつしょう)」や、「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」などもこれに含まれます。
このような治療には、口腔外科医、矯正歯科医、看護師、歯科衛生士、薬剤師など、さまざまな専門職がチームを組んで連携する「チーム医療」がとても大切です。
当センターでは、歯科口腔外科を中心に、専門の医師やスタッフが連携して、顎変形症に対する総合的で専門的な治療を行っています。

図1:顎変形症の治療ではチーム医療が重要です
診療内容と当センターの特色
当センターでは、顎変形症の治療経験が豊富な矯正歯科の先生と密に連携し、正確で質の高い矯正治療と手術を組み合わせた総合的な医療を提供しています。
手術では、単にかみ合わせを整えるだけでなく、患者さん一人ひとりの希望や生活の背景を考慮した治療を大切にしています。
すべての患者さんに対して、手術前にCT画像をもとにしたコンピュータシミュレーションを行い、かみ合わせの機能性だけでなく、顔全体のバランスや見た目の美しさにも配慮した手術計画を立てています。

図2:顎変形症手術のシミュレーション
どのような症状が対象になるの?
「顎変形症」と診断される可能性があるのは、以下のような症状がある場合です:
- 顔が左右に曲がっている
- あごが前に出ている
- あごが引っ込んでいる
- あごが左右にずれている
- うまく物がかめない(前歯が当たらず奥歯だけがかむ)
このように、あごの形が原因でかみ合わせや発音に問題があると診断された場合、矯正治療だけではなく手術を併用した治療が必要になることがあります。
治療相談
センター長の代田が直接対応いたします。まず、お顔の形、かみ合わせ等を細かく診察した上で、皆さまのご要望を伺い、希望等を考慮した、適切な治療法を提案致します。
治療の流れ
顎変形症が疑われる場合、まずは必要な検査を行います。検査内容には以下が含まれます。
- 顔の写真、口の中の写真
- 歯の型取り(歯列模型)
- レントゲンやCTによる画像検査
これらをもとに、「矯正治療だけで治すのは難しい」と判断された場合は、手術と矯正治療を組み合わせた治療が必要になります。
治療は以下の流れで進みます。
- 検査・診断
- 術前の矯正治療(6か月以上):上下の歯並びを整える
- 手術:正しいかみ合わせになるようにあごの骨を整える
- 術後の矯正治療
- 保定:治療後の状態を安定させるための経過観察

図3:顎変形症の治療の流れ
主な手術の種類と内容
Le FortⅠ型骨切り術(ルフォーI型)
上顎全体を理想の位置に移動させる手術です。歯ぐきの内側を切開し、鼻の横あたりの高さで上顎骨を水平に切り離すことで、上の歯と骨を一体として前後・上下・左右に移動させることができます。
適応症例
- 上顎の後退(出っ歯の逆)
- 中顔面の陥凹(顔がのっぺりして見える)
- 顎や咬合面の左右非対称
- ガミースマイル(歯ぐきが見えすぎる)
- 開咬(前歯が噛み合わない) など
多くの場合、下顎の手術と組み合わせて「上下顎同時移動術」として行われます。
上顎前歯部歯槽骨切り術
上顎の前歯が前に出ている(上顎前突ケースに対し、前歯だけを後方に移動させて噛み合わせと口元のバランスを整える手術です。
通常は第1小臼歯(4番)を抜歯し、そのスペースを使って前歯を後退させ、チタン製のプレートで固定します。見た目も自然で、発音や咀嚼(そしゃく)も改善します。
下顎枝矢状分割術(SSRO)
下顎の骨を矢状方向(前後方向)に分割して、下顎全体を前方または後方に移動させます。
受け口(下顎前突)や小下顎症、左右非対称、開咬などに幅広く対応できる、国内外で最も標準的な顎矯正手術です。
特徴
- 骨の接触面が広く、骨の癒合が早いため、後戻りしにくい。
- 前後あるいは左右方向への移動幅が大きく、適応範囲が広い。
- 術後、一時的に顎先の感覚が鈍くなることがあります(術後6ヶ月程度までに回復することが多い)。
下顎前歯部歯槽骨切り術
下の前歯が前に傾いている・出ている場合に、前歯の骨ごと後方や下方向に移動する手術です。
通常、左右の小臼歯を抜歯し、犬歯〜犬歯(3番〜3番)を含む前方ブロックを移動させます。かみ合わせのズレが軽度な場合や、全体の下顎手術に併用されることがあります。
オトガイ形成術(あご先の整形)
顎先が出ている・引っ込んでいる・左右にずれている・顔が長く見えるといった見た目の悩みを、オトガイ(顎の先端)を切り出して移動・整形することで改善します。
術式により次のような効果が期待できます。
- 横顔のバランス改善(Eライン)
- 顔の長さや左右差の調整
- Vラインの形成による小顔効果
美容目的だけでなく、顎機能とのバランスも重要視して行います。
顎矯正手術の術後の過ごし方
1.入院期間
通常は術後7~10日程度の入院となります。術後の安静と経過観察が目的ですが、症状や術式により短縮も可能です。
2.退院後の生活
- ゴムかけ(上下の歯をゴムで引っ張る)の指導を行います。
- 退院直後は硬いものが食べにくく、口も大きく開けづらい状態ですが、通常は遅くとも1か月程度で回復します。
- 定期的なレントゲン検査と診察を通じて、骨の位置や治り具合をチェックします。
- 日常生活(通学・通勤など)への復帰は、術後の回復を見ながら行っていただきます。
費用について
顎変形症と診断された場合、手術前後の矯正治療と外科手術には公的医療保険が適用されます。
ただし、保険が使えるのは、国や都道府県から認可を受けた「指定施設」での治療に限られます。当院では、この条件を満たした矯正歯科の先生とも連携しているため、安心して治療を受けていただけます。
顎矯正手術を受けるメリット
- 噛み合わせが大幅に改善します。
- 発音・食事のしやすさが向上します。
- 顔の左右差や輪郭のバランス向上が期待できます。
- 横顔や口元の美しさ(Eラインの整形)が期待できます。
- 心身の自信回復とQOLの向上が期待できます。
まずはご相談ください
顎のズレや噛み合わせの悩みは、見た目の問題だけでなく日常の生活にも大きく関わるものです。
当院では、専門の口腔外科医と矯正歯科医が連携し、安全かつ最適な治療をご提案いたします。
スタッフ紹介
![]() 代田 達夫 顎変形症センター長/ |
主な経歴
専門としている領域
専門医・指導医
患者さんに一言
|