がん治療方針の決め方について
以前のがん治療の進め方
かつて、がん治療における方針は主治医が一方的に決定し、患者さんに病名を伝えないまま治療を進めることが一般的でした。当時の医師教育では、がんは治癒が難しいため患者さんに病名を告げることは避けるべき、とされていました。しかし、振り返ってみると、このような対応は、知る権利を妨げているだけでなく、医師と患者さんとの信頼関係を損ない、治療への協力も得にくいものだったと言えます。
推奨されている「インフォームド・コンセント(説明と同意)」
現在では、「インフォームド・コンセント(説明と同意)」が推奨されており、病名や症状をしっかりと説明し、患者さんの理解と同意を得た上で治療方針を決定することが重要とされています。しかし、名前の通り、これだけでは治療などについて「説明」して、治療の「同意」をいただく、というのみで、そこには患者さんの希望が入ってきません。例えば、標準的には手術が最適とされる場合でも、患者さんの体力や置かれた状況、術後の合併症リスクを考えると、患者さん自身の希望は放射線治療や他の選択肢を優先することも考えられます。また、患者さんが様々な治療法に関する十分な情報を持っていないことも通常です。
患者さんと十分に相談しながら治療を進める
シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared-Decision Making)
海外の医療先進国では、「シェアード・ディシジョン・メイキング(共同意思決定)」が実施されています。この方法は、患者さんと医師が十分に相談しながら治療方針を決めていくことで、インフォームド・コンセントが医師から患者への一方的な流れが主体であるのに対して、双方向の対話を重視することが違います。例えばドイツでは国を挙げてこの方法を推進しており、患者さんの意思を十分尊重した治療方針決定が標準化されています。
しかし日本では、上記のような患者さんの意向を十分配慮せずに医師が一方的に治療を決めがちだった背景に加えて、医師が忙しく十分、診察時間の中で時間をかけて患者さんと対話しながら方針を決めることが難しい場合もあります。また、患者さん自身も治療法に関する情報が不足していることが多く、国内ではシェアード・ディシジョン・メイキングが広く実施されているとは言い難い状況です。
セカンドオピニオンの活用
こうした状況を補う方法の一つとして、「セカンドオピニオン」の活用が挙げられます。セカンドオピニオンでは、患者さんが主治医以外の専門医から時間をかけて説明を受け、納得のいく形で治療方針を検討できます。治療について不安や疑問がある場合に限らず、セカンドオピニオンを積極的に利用することをお勧めします。
以上のように、がん治療方針を決める上で、患者さんと医師の十分な情報共有、そして患者さん自身の意向を尊重することが求められています。日本においてもシェアード・ディシジョン・メイキングの普及が期待されますが、現状ではセカンドオピニオンを活用するなどして、患者さんが納得した上で治療に臨める環境を整えていくことが必要です。セカンドオピニオンはどこの病院でも実施が推奨されていますので、遠慮せず他の医師の意見を聞くことも視野に入れてみてください。
参考
監修 総合東京病院 放射線治療センター 国枝 悦夫 |