5.脊髄腫瘍

脊髄腫瘍は脳腫瘍の約10分の1の頻度で、比較的稀なものです。部位別に3つに分類されます。

  1. 硬膜外腫瘍:髄膜より外側に局在する腫瘍で、大部分は肺癌、乳癌などからの転移性腫瘍で、悪性のものが多い。
  2. 硬膜内髄外腫瘍:髄膜の内側で、脊髄の外側に局在する腫瘍で、脊髄腫瘍の中では最も頻度が高く、神経根から発生する神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)(図5-1~5-5)と髄膜から発生する髄膜腫(ずいまくしゅ)(図5-6~5-7)が大部分を占める。
  3. 髄内腫瘍:脊髄の中に発生し、上衣腫(じょういしゅ)(図5-8~5-15)星細胞腫(せいさいぼうしゅ)(図5-16~5-17)および血管芽腫(けっかんがしゅ)(図5-18~5-23)が代表的な腫瘍です。

硬膜内髄外腫瘍および髄内腫瘍は良性腫瘍が多いことから、治療は原則的に手術による摘出が基本である。但し、星細胞腫の場合には放射線治療が追加されることが多い。

その他、硬膜内外、脊柱管内外、神経根管内外、脊柱内外など鉄亜鈴様に2ヵ所以上の解剖局在にまたがって存在する神経鞘腫があり、ダンベル型神経鞘腫dumbbell type neurinomaという(図5-24~5-30)

症例1

脊髄硬膜内髄外腫瘍の術前MRI

図5-1 脊髄硬膜内髄外腫瘍(神経鞘腫)の手術前(a,b,c)後(d)のMRI所見
a、b、cにみられるように腫瘍(←)は大きく、正常脊髄は強く圧迫・変形し、図cでみられるように三日月型につぶされている。患児は左上肢のしびれを訴え、精査の結果、脊髄腫瘍と診断された。もし、腫瘍が悪性、すなわち、増殖速度が速く、急激に脊髄がこのように強くつぶされた場合には、四肢の麻痺が起こるが、症状が軽微なことから、腫瘍の増殖はゆっくり、すなわち、良性腫瘍であることが臨床経過からも推定される。

脊髄硬膜内髄外腫瘍(神経鞘腫)

図5-2 脊髄硬膜内髄外腫瘍(神経鞘腫)。髄膜を切開し、腫瘍(*)を露出した術中所見。脊髄硬膜内髄外腫瘍の中で最も多い神経鞘腫は上図のように脊髄から枝分かれした神経根(→)から発生する良性腫瘍です。

症例2

脊髄硬膜内髄外腫瘍の術前Gd造影後MRI

図5-3 脊髄硬膜内髄外腫瘍(神経鞘腫)の術前Gd造影後MRI(左:矢状断面、右:横断面)。腫瘍により脊髄が三日月状に左方に強く圧迫されている。

脊髄硬膜内髄外腫瘍の術中写真

図5-4 図5-3の同症例の術中写真。硬膜切開後、露出された硬膜内髄外神経鞘腫。

脊髄硬膜内髄外腫瘍の術後2年の頸椎MRI

図5-5 図5-3の同症例の術後2年の頸椎MRI。硬膜内髄外腫瘍は摘出され、精髄は正中に戻っている。
左:Gd増強矢状断面像、右上:Gd増強横断面像、右下:T2強調横断面像。

脊髄硬膜内髄外腫瘍(髄膜腫)

図5-6 頭蓋-頸椎移行部の硬膜内髄外腫瘍(髄膜腫)の一例
腫瘍により脳幹-脊髄境界部は強く左後方に圧排されている。
左:術前造影後MRI矢状断面像。右:術中所見。

脊髄硬膜内髄外腫瘍(髄膜腫)

図5-7 左:腫瘍摘出後の術中所見、右:術後MRIで腫瘍は摘出されている。

症例1

脊髄髄内腫瘍(上衣腫)

図5-8 脊髄髄内腫瘍(上衣腫)の1手術例
a:術前造影後MRI。C2/3間レベルに腫瘍(→)がみられる。
b:術前造影後MRI。腫瘍(↑)は脊髄内に存在する。
c:術前FDG-PETの側面像。腫瘍部に一致して18F-FDGの異常集積(←)が観察される。
d:術中所見。脊髄腫脹がみられるが、腫瘍は脊髄表面には露出していないことから、後正中裂(↑)からアプローチする。
E:腫瘍摘出後の術中写真。腫瘍存在部位(↑↓)は空洞となっている。

脊髄髄内腫瘍術後2年のGd-MRI

図5-9 術後2年のGd-MRI。腫瘍は摘出されている。

症例2

脊髄髄内腫瘍(上衣腫)

図5-10 頸髄髄内腫瘍(上衣腫)の1例。C2レベルにGd増強腫瘍があり、周囲にsyrinxを形成している。

脊髄髄内腫瘍(上衣腫)のPET検査

図5-11 図5-10と同症例のPET検査。腫瘍の実質部に一致して18F-FDGの明瞭な取り込みが認められる。

脊髄髄内腫瘍の術後Gd造影後MRI

図5-12 術後Gd造影後MRI。腫瘍は摘出されている。

症例3

頸髄髄内腫瘍(上衣腫)

図5-13 頸髄髄内腫瘍(上衣腫)の1例。C7-Th1レベルにGd増強腫瘍(中央)があり、頭側にsyrinxを形成している(左T2強調像、中央)。術後5年の頸椎MRIのT2強調像では再発はみられていない。

頸髄髄内腫瘍(上衣腫)

図5-14 図5-13と同症例の硬膜切開後の脊髄後面(上)および脊髄正中裂の離開後の脊髄腫瘍(下)。

症例4

脊髄円錐部腫瘍(上衣腫)

図5-15 脊髄円錐部腫瘍(上衣腫)の1例。L1-L2レベルにGd増強腫瘍があり、脊柱管内を占拠している。

脊髄円錐部腫瘍(上衣腫)

図5-16 図5-15と同症例の硬膜切開後の脊髄円錐部腫瘍(上衣腫)。

脊髄髄内腫瘍の術後MRI

図5-17 左:術後MRI矢状断面像、腫瘍は摘出されている。右:腰椎CT横断面像、摘出椎弓が還納・固定されている。

脊髄髄内腫瘍(星細胞腫)

図5-18 第7~第9胸髄が腫脹し、脊柱管内を占拠している。Gd投与で不規則に増強される。
左:T1強調矢状断面像、中:T2強調矢状断面像、右:Gd造影T1強調矢状断面像。

脊髄髄内腫瘍(星細胞腫)

図5-19 脊髄後面像。軟膜直下まで腫瘍が伸展している。腫瘍と周囲脊髄組織との境界は不明瞭で、部分摘出術を行った。術後に放射線療法を追加した。

症例1

脊髄髄内腫瘍の術前MRI

図5-20 術前MRI(左:T2矢状断面像、中央:Gd-T1矢状断面像、右:Gd-T1横断面像)。C6/7レベルにGd増強腫瘍があり、周囲にsyrinxを形成している。

脊髄髄内腫瘍(脊髄血管芽腫)

図5-21 硬膜切開後の脊髄後面。異常に拡張した後脊髄静脈および神経根下に腫瘍が認められる。

脊髄髄内腫瘍の術後MRI

図5-22 術後MRI(左:T2、右:Gd-T1)。脊髄空洞は残存しているが、腫瘍は摘出されている。

症例2

脊髄髄内腫瘍の術前MRI

図5-23 術前MRI(左:Gd造影後矢状断面、右:Gd造影後横断面)。C2-3レベルにGdで造影される髄内腫瘍が存在し、このレベル以下に脊髄空洞を伴っている。

脊髄髄内腫瘍のCT横断面

図5-25 脊髄摘出後のCT横断面(左:C2レベル、右:C3レベル)。

脊髄髄内腫瘍(脊髄血管芽腫)

図5-24 硬膜切開後の脊髄後面。脊髄をほぼ占拠する赤色腫瘍が存在し、隣接して異常に拡張した動静脈が認められる(左)。髄内腫瘍全摘出後の脊髄後面(右)。

ダンベル型神経鞘腫dumbbell type neurinomaとは、硬膜内外、脊柱管内外、神経根管内外、脊柱内外など鉄亜鈴様に2ヵ所以上の解剖局在にまたがって存在する腫瘍である。Edenにより4型に分類される(図5-26)

ダンベル型脊髄神経鞘腫の分類

図5-26 ダンベル型脊髄神経鞘腫の分類。
Eden K: The dumb-bell tumors of the spine. Br J Surg 28: 549-570, 1941 。

症例1

ダンベル型脊髄神経鞘腫のGd造影後MRI

図5-27 ダンベル型脊髄神経鞘腫の1例(Edenのtype 2)のGd造影後MRI。腫瘍は脊柱管内から神経根管内に主座を置き、硬膜内に伸展し、脊髄を左方向に圧排している。また、脊柱管外にわずかに伸展している。
上左:矢状断面像、上右:冠状断面像、下:横断面像。

ダンベル型脊髄神経鞘腫の術前PET検査

図5-28 図5-27と同症例の術前PET検査。
左:18F-FDG、右:11C-methionine投与後の脊髄横断面。
両者とも腫瘍に一致した取り込みが認められる。

ダンベル型脊髄神経鞘腫の腫瘍摘出後MRI

図5-29 腫瘍摘出後のGd造影後MRI横断面。腫瘍は摘出されている。

症例2

ダンベル型脊髄神経鞘腫のGd造影後MRIおよびFDG-PET所見

図5-30 ダンベル型脊髄神経鞘腫の1例(Edenのtype 4)のGd造影後MRI(上図)およびFDG-PET所見(下図)。腫瘍は神経根管内から右頸部に伸展腫大している。FDGの腫瘍へのuptakeは弱く、悪性度の低い腫瘍が示唆される。
上左:冠状断面像、上右:横断面像、下左:頸部CT冠状断面像、下中央:FDG-PET、下右:PET-CT fusion像。

ダンベル型脊髄神経鞘腫の腫瘍

図5-31 右頸部の露出された腫瘍。

ダンベル型脊髄神経鞘腫の腫瘍摘出後MRI

図5-32 腫瘍摘出後のGd造影後MRI冠状断面像。腫瘍は摘出されている。

Positron Emission Tomography(PET)検査

PET検査は早期胃がん以外のすべての悪性新生物(がん)の診断に保険適応され、広く活用されている。また、がん検診の一環としてPETを活用し、早期発見、早期診断、早期治療に結びつけている。

通常のがん診断では、ブドウ糖に類似した構造をもつ18F-FDGという放射性薬品を静脈内注射し、糖代謝の旺盛ながん病巣に集積させ、その局在をPET装置単体あるいはPET-CT(図5-26)で捉える。この薬物以外に腫瘍診断に有用なアミノ酸代謝を評価できる11C-メチオニンmethionineという放射性薬品によるPET検査も臨床応用されている。

PET-CT装置

図-5-31 総合東京病院に設置されているPET-CT(GE社製)

PET-CT診断画像

図5-32 62歳・男性。脊髄髄内腫瘍の暫定診断で、手術による摘出を予定していたが、術前のPET検査によりサルコイドーシスと診断され、手術が回避され、副腎皮質ホルモンの大量投与によるパルス療法が選択された。サルコイドーシスとはリンパ節、肺、眼、心など多臓器を障害し、病巣部にリンパ球浸潤を伴う原因不明の全身性非乾酪性(=非結核性)肉芽腫性疾患である。通常、胸部X線撮影(中央)で両側肺門部リンパ節腫脹が指摘されるが、本例では明らかではなかったが、FDG-PET(右)で両側肺門部リンパ節への明瞭な18F-FDGの取り込みが認められ、サルコイドーシスと診断された。このようにPET検査はがん診断だけでなく、非腫瘍性病変の診断にも有用である。