7. 頭蓋頸椎移行部病変
1)環軸椎亜脱臼
環軸椎不安定症(かんじくついふあんていしょう)とは7個の骨からなる頸椎の第1番目の環椎(かんつい)が第2番目の軸椎(じくつい)に対して前方へずれる不安定な状態です。稀に後方へずれることもあります。そのうち、ずれが高度で環椎と軸椎を結合する関節が完全にはずれてしまう場合を環軸椎脱臼(かんじくついだっきゅう)といい、はずれかかった状態を環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)(図7-1~7-3)といいます。ダウン症候群(10~30%で合併)、慢性関節リウマチ、急性外傷、Grisel’s syndrome、軟骨無形成症(なんこつむけいせいしょう)、歯突起形成不全などに合併します。
ずれの程度によっては、頸椎の中を通る脊髄が圧迫・損傷されたりすることがあり、脊髄の圧迫症状として手足の運動麻痺、感覚麻痺、呼吸障害、膀胱・直腸障害、後頭神経の圧迫症状として後頸部痛、椎骨動脈の圧迫症状として強いめまいがあり、坐位をとれないなどが起こります。
一般に、環軸椎亜脱臼に対し、その進行予防と治療の目的で、ソフトカラー、フィラデルフィアカラー、支柱付の装具が使用されます。ハローベストは最も固定力のある装具ですが、これは主に手術の前後に使用されます。保存療法が無効な場合に、手術療法が選択されます。
手術療法の基本は、頸椎の椎体間のぐらつき(亜脱臼)を固定することです。そのために骨移植を行い、骨癒合をはかりますが、従来はハローベストを手術前後に使用しましたが、現在は、各種脊椎インストルメントの発達(図7-1~7-4)および手技の進歩により、術後簡単なカラー装着で済むようになりました。
図7-1 Os odontoideum(歯突起形成不全の一型で、歯突起が椎体体部と分離して発育するタイプ)による環軸椎亜脱臼の一手術例
頸椎単純X線撮影側面像の前屈位(a)、正中位(b)、後屈位(c)。正中位、後屈位で、環椎および歯突起は軸椎に対して後方に偏位し、環軸椎亜脱臼と診断される。
d:術中写真。右下にC1-C2 transarticular screwのscrew headがみられる。C1後弓-C2棘突起間に自家腸骨片(*)が移植されている。
e:術後頸椎X線撮影側面像。
f:術後CT矢状断面像。
使用した脊椎インストルメントはUCSS® およびAtlas cable®(Medtronic)
図7-2 Magerl法およびSonntag法。環軸関節貫通螺子固定法で、現在も強力なC1-C2後方固定術であるが、スクリュー挿入時の椎骨動脈損傷という致命的な合併症がある。
図7-3 頸軸椎亜脱臼の一手術例
頸椎単純X線撮影側面像の前屈位(a)、正中位(b)、後屈位(c)。前屈位、正中位で環椎が軸椎に対して前方に偏位し、頸軸椎亜脱臼と診断される。
d:C1外側塊スクリューとC2椎弓根スクリューをロッドで連結したC1-C2後方固定術の術中写真。C1-C2間に自家腸骨移植されている。
e:術後頸椎X線撮影側面像。
f:術後3次元CT。使用した脊椎インストルメントはVertex-maxTM(Medtronic)。
e:Goel / Halms-Melcher法。環椎外側塊スクリューと軸椎椎弓根スクリューをロッドで締結固定する手技で、Magerl法と同等な固定力が得られ、最近普及している。
図7-4 Goel / Halms-Melcher法。
左:環椎外側塊スクリューと軸椎椎弓根スクリューをロッドで締結固定する手技で、Magerl法と同等な固定力が得られ、最近普及している。
右:上記法は単独ではなく、自家腸骨移植による後方固定と併用される。
2)頭蓋底陥入症
正常の頭蓋底は下方に突出しますが、頭蓋底陥入症(ずがいていかんにゅうしょう)(図7-5)では大後頭孔後縁の後頭骨が内反挙上したために頭蓋底が上方に突出します。症状は頭蓋腔内に陥入した上位頸椎が脳幹を圧迫して四肢麻痺、嚥下障害、呼吸障害、小脳失調などを起こします。
図7-5 軟骨無形成症に合併した頭蓋底陥入症例に対する後頭骨-頸椎後方固定術の一例
a:手術前の頸椎CT矢状断面像。頸椎が頭蓋底に陥入している(→)。
b:MRI T2強調像。本例はキアリ奇形も合併しているため、小脳の一部が脊柱管内に脱出し、脳幹-頸髄移行部が小脳の一部とともに圧迫されている。
c:術中所見。
d:術後MRI。脳幹-頸髄移行部の圧迫は軽減している。
e:術後の頸椎単純X線撮影側面像。使用した脊椎インストルメントはVertex-max®(Medtronic)。