心房細動血栓予防外来
心房細動血栓予防外来とは
心房細動の治療の一つとして、心臓の中にできてしまう血栓による脳梗塞を抗凝固薬の内服にて予防することは重要です。しかし心房細動の患者さんは高齢者も多く、出血リスクとの兼ね合いや抗凝固療法の持続が難しい患者さんが多くいるのが現状です。そこで経皮的左心耳閉鎖システムであるWATCHMAN(ウォッチマン)が当院でも施行可能となりました。認定施設は東京都では約20施設あり、中野区、練馬区、杉並区、豊島区では当院のみ実施施設となっております。数日の入院期間でカテーテルを用いて脚の付け根から左心耳を閉鎖することが可能です。それにより血栓ができるのを予防することができます。術後は徐々に抗凝固薬の減量や中止が可能となります。出血の既往のある方や出血リスクの高い方に対して脳梗塞発症、出血リスクの軽減に期待ができます。また心房細動の患者さんは持続的に抗凝固療法が必要でありますが、抗凝固療法を終了することができるメリットは多くあるかと思います。当院では、そのような患者さんのために「心房細動血栓予防外来」を全国に先駆けて設立しました。心房細動の患者さんで抗凝固療法を行っている方はご相談ください。
心房細動の治療
心房細動の治療には大きく次の3つがあります。
A 血栓による脳梗塞の予防
B 不整脈の治療
C 心不全や他の心臓疾患合併症の治療
Aの血栓による脳梗塞の予防については非常に重要な治療です。心房細動とは心臓の拍動が不規則になる不整脈ですが、心房細動が生じると心臓の中の左心房という場所の中にある左心耳という隙間の血液が淀み、血液が固まってしまい血栓ができてしまいます。図1は超音波検査の画像ですが、左心耳に血栓ができており、常に可動しています。この血栓が心臓から脳へ行く血管へ流れていくと脳梗塞を発症してしまいます。そのために抗凝固薬(ワーファリン、プラザキサⓇ、イグザレルトⓇ、エリキュースⓇ、リクシアナⓇ)を内服することで血栓ができるのを予防することになります。
Bの不整脈に対する治療は心房細動そのものをカテーテルアブレーションによる治療を行い、通常の脈拍に治す治療を行うか、または心房細動のまま心拍数が早くならないように内服薬を飲むかが主な治療になります。当院では不整脈外来で専門医が治療を行っています。
抗凝固療法は心房細動が続いている限りは一生継続することが必要になります。抗凝固療法は血液をさらさらにし、通常よりも血液が固まりにくくする治療ですので、万が一、身体のどこかに出血が生じた場合に血が止まりにくくなります。この出血リスクは合併症や年齢とともに高くなり、抗凝固療法の継続が難しくなってきます。出血が起こった場合には抗凝固薬を中止しなければならないのですが、その場合に血栓が生じると脳梗塞などの致死的な疾患が起こってしまいます。また抗凝固薬を継続するということは、抗凝固薬代も持続してかかることになります。そこで左心耳に血栓ができないようにするために、カテーテルを用いて脚の付け根の静脈から数mmの穴を通して左心耳に蓋をする治療である「左心耳閉鎖術」が施行可能となりました。カテーテル治療ですので、低侵襲であり、数日間の入院で治療を行うことができます。WATCHMAN(ウォッチマン)という左心耳閉鎖システムを用いて治療を行います。WATCHMAN(ウォッチマン)の登場により致死的な脳梗塞や出血イベント、死亡率を低下させることができ、今まで以上に心房細動の患者さんの予後を改善することが期待できます。よって以下の適応のある患者さんに対して左心耳閉鎖システムを用いた血栓予防を行うことを目的に、心房細動血栓予防外来を開設しました。
図1 心臓の超音波検査画像
左心耳に血栓が確認できる
経皮的左心耳閉鎖システム「WATCHMAN(ウォッチマン) FLX™」について
治療適応
HAS-BREDスコア(高血圧、腎機能肝機能障害、脳卒中、出血、不安定INR、66歳以上、薬剤またはアルコール)というスコアで3点以上、転倒による外傷の既往、輸血や処置が必要となるような出血の既往がある方が適当となります。近年、心房細動の患者さんの高齢化に伴い、経皮的左心耳閉鎖システムの治療適応となることが増加しておりますので、一度ご相談ください。
治療器具について
「WATCHMAN(ウォッチマン) FLX™」は、旧モデルであるWATCHMAN(ウォッチマン)以来2つのランダム化臨床試験を始め、いくつかの臨床レジストリーを実施しており、登録患者数は6,000例を超えています。これまでに世界中で200,000例を超える患者さんに留置されています。脚の付け根の静脈から細く折りたたまれたWATCHMAN(ウォッチマン)(図2)を左心耳まで挿入し(図3a、b)、左心耳に留置して、左心耳に蓋をします(図4a、b)。数ヶ月後にはこの表面に心臓の内膜が張ってきて、左心耳という空間がなくなり、血栓ができるスペースがなくなります。
図2 WATCHMAN(ウォッチマン)
図3a 左心耳に挿入したWATCHMAN(ウォッチマン)(イラスト)
図3b WATCHMAN(ウォッチマン)を左心耳に留置(X線透視画像)
図4a WATCHMAN(ウォッチマン)を左心耳に挿入して蓋をした状態(イラスト)
図4b 留置後の左心耳(超音波画像)
治療のメリット
左心耳の血栓形成を予防することにより、脳梗塞を予防することができます。また抗凝固薬の内服を中止または減量が可能となり、出血リスクを減らすことができます。その他、長期間の抗凝固薬内服によるお薬代を減らすこともできます。治療はカテーテルを用いて行いますので、低侵襲に治療を行うことができます。
治療の流れ
1.心房細動血栓予防外来を受診
2.経食道心エコー図検査を行い、左心耳の形態を評価
3.手術前検査
4.手術前日に入院
5.全身麻酔にて経皮的左心耳閉鎖術を施行
6.翌日から歩行が可能、翌々日退院 (通常3泊4日ですが、病状により前後します。)
7.1ヶ月半後に外来受診
8.以降は数ヶ月おきに外来受診
当院での特徴
・ハートチームによる治療
経皮的左心耳閉鎖術はハートチームによるチームでの治療が必要となります。当院ではカテーテル治療専門医、SHD心エコー図認証医、不整脈専門医の資格を有した循環器内科医と心臓血管外科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師、リハビリテーションセラピストなどのスタッフが一丸となって治療を行っております。
・脳神経外科との連携
当院は脳神経外科のスタッフが揃っており、日本脳卒中学会認定脳卒中専門医、日本脳神経血管内治療学会認定脳血管内治療専門医・指導医も在籍しております。脳梗塞と関連のある疾患でありますので、連携を行うことにより、よりスムーズな治療を行うことができます。
診療時間
火曜日午前・午後
担当医 滝村英幸