受験生と自然気胸について①
患者さんのためのQ&A
自然気胸は15歳~25歳くらいの男性に多い病気で、やせ形で多少神経質な方、学業成績の良い方に多い印象があります。この年齢層はちょうど受験生や学生に当てはまります。特に受験生や受験生をお持ちの親御さんにはご心配がおありかと思います。今回は特に受験生にフォーカスして説明したいと思います。
自然気胸とは?
若い男性の気胸の多くは肺の一部にブラという袋ができ、ブラが破れることで肺の空気が胸に溜まった状態を自然気胸といいます。
自然気胸はストレスが関係している?
実はブラは若い男性に比較的多くあるのですが、ブラがすべて破れるわけではありません。ブラが破れる大きな誘因としてストレスがあります。
自然気胸になりやすい年齢は、学校生活や部活、また受験準備に忙しい時期です。特に受験生にとってストレスを避けた生活はほとんど不可能です。当院を受診された患者さんにお話を聞くと、ほとんどの方は最近「忙しかった」、「寝不足だった」、「食事が不規則だった」などと話されます。
自然気胸の治療法とは?
自然気胸の治療には様々な方法があります。
①軽い気胸でしたら、安静にして様子を見ます。
②少し程度が大きければ、胸に針を刺して空気を抜くこともあります(脱気法)。
③より程度が大きいときは、胸に細いビニールの管を入れ、空気を持続的に抜きます(胸腔ドレナージ)。
ブラの破れた部分は自力で塞がります(自然治癒)。
しかし自然治癒ではブラはそのまま残るので、同じような状況になるとまた破れる可能性が出てきます(再発)。
初めて気胸になった人が再発しない(=する)可能性は約50%です。
④ブラを確実に治療するには手術が必要です。手術後再発しない可能性は90%以上です。
再発は反対側の肺のブラ、または新しくできたブラが原因となります。
50%の再発をどう考えるか?
従来は、初回の気胸に対しては①、②、③が行われ2回目以降の気胸では④が選択されてきました。
初回から手術を選択しないのは、50%も再発しないのだから初めは手術を行う必要はない、という考えに基づくものです。
これを受験生に当てはめて考えてみたいと思います。
合格率50%の大学を受験するのに、半分も通るからとゆったり構える人は多くないでしょう。残り50%の合格しない可能性を考えて対策をすると思います。
一方、合格率90%以上の大学を受験するのはどうでしょうか。自信をもって受験するでしょうし、一般には滑り止めと言われています。
従来考えられてきた50%も再発しないから大丈夫、というのは受験生には当てはまらないと思います。安心して受験に臨むには90%以上再発しない方法を選ぶのではないでしょうか。
そこで私たちは、受験の可能性のある人には、初回の時点で手術をお勧めしています。
最近気胸になった方でも、夏休みや冬休みなど、少し落ち着いた時期に手術を行うこともあります。
似たような状況はパイロットのタマゴの方です。気圧の低い高空を飛ぶので肺にブラがあると、破裂して気胸になる可能性が高くなります。
気胸になって呼吸が苦しくなり操縦ができなくなると、重大な事故につながる危険性があるため、ブラを手術で取り除くまでは航空機を操縦することができません。
特に受験生には、気胸の再発に怯えてストレスを避け、消極的な生活を送るのではなく、再発しないと自信をもって積極的な生活をする方がふさわしいと考えています。
とはいえ、手術を受けるのはイヤなことです、当たり前ですが手術を好んで受ける方を見たことがありません。
幸いなことに、最近気胸の手術はグンと改善されました。
次回はその手術の内容についてご紹介したいと思います。
監修 総合東京病院 気胸センター長/呼吸器外科部長 森川 利昭 |