巨大肺嚢胞の話
患者さんのためのQ&A
今回は「巨大肺嚢胞」(はいのうほう)の話です。喫煙を続けると、肺は中から壊れて肺気腫という状態になります。肺気腫の一部が特に膨らんで大きな空気の袋になったものを「巨大肺嚢胞」といいます。「巨大肺嚢胞」はいわば空気の塊で、大きくなると周りの肺を圧迫するので肺全体の呼吸を難しくします。例えて言うと、大きなテーブルでみんなが忙しく仕事をしているところに、1人テーブルの上に寝っ転がって新聞を広げている迷惑な人です。そんな時にはこの人に出て行ってもらうのが一番いい方法で、その手段が手術ということになります。
肺気腫と肺嚢胞で肺がパンクして気胸に
今回の患者さんは長く喫煙を続けてこられた方で、一日中忙しく立ち仕事をしていました。仕事中に息苦しさがだんだん強くなり受診しました。検査の結果、肺気腫に加えて、大きく膨らんだ「巨大肺嚢胞」がいくつもありました(図1)。これでは呼吸が苦しいはずです。
図1 来院時のCT。
肺の下の方に「巨大肺のう胞」(黄色い星印)があります。肺がパンクして気胸にもなっています
病気について説明し、手術を予定しました。ところが手術予定日より前に、突然肺がパンクして気胸になってしまいました。そのため呼吸ができなくなり急いで来院し、すぐに手術を受けてもらいました。
巨大肺嚢胞に対して行う単孔式胸腔鏡手術の様子
手術は胸に開けた1つだけの穴から、胸腔鏡という器具を入れ、中を観察しながら行いました。「巨大肺嚢胞」は肺にある大きな袋で、ちょうど川魚の浮袋のような外観です(図2)。「巨大肺嚢胞」とパンクした肺の根元をそれぞれ糸で縛って治療しました(図3)。
手術の効果は劇的で、「巨大肺嚢胞」は姿を消し、気胸も治って、手術の3日後には元気に退院されました。呼吸の回復も順調で、翌週には普通に仕事に戻られたそうです。自主的にタバコを止められたのは言うまでもありません。
図2 「巨大肺嚢胞」の写真。白く見えるのが「巨大肺嚢胞」
図3 「巨大肺嚢胞」の根元を縛って治します
身体への負担が少ない胸腔鏡手術で元気な人生を
当院呼吸器外科ではほとんどの肺嚢胞の手術を1つだけの穴から胸腔鏡という器具を使って、できるだけ肺を縛って治す手術(単孔式胸腔鏡手術)を行っています。こうすることで痛みなど身体への負担を最小にすることができ、また肺に傷をつけないことから、高齢者であっても手術後の回復が早いとされています。
いつも患者さんには「早く手術を受けたほうが元気な時間が長く持てますよ」とお話しするのですが、やはり手術は怖いためか、どうしても決断が遅れてしまうのは、人情とはいえ歯がゆいところです。
監修 総合東京病院 気胸センター長・呼吸器外科部長 |
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