薬と眠気の関係
患者さんのためのQ&A
市販の花粉症治療薬のテレビコマーシャルで、「眠くなりにくいのによく効く」というようなフレーズを耳にしたとはありませんか?
眠くなりにくい薬があるということは、眠くなりやすい薬があるということなのでしょうか。そもそも、薬を飲むと眠くなるのはどうしてなのでしょう。
今回は、薬と眠気の関係について、花粉症治療薬を例に挙げてお話ししたいと思います。花粉症の症状はつらいけれど、眠くなるのが心配で薬を飲むのを迷っているという方は、ぜひ参考にして下さい。
花粉症とアレルギー反応
花粉症とは、植物の花粉が原因となって、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどのアレルギー症状を引き起こす病気のことです。季節性アレルギー性鼻炎とも呼ばれ、四季がある日本では、季節ごとに様々な植物が原因となり、春はスギ、秋はブタクサが有名です。鼻以外に眼の症状(かゆみ、涙、充血)を伴うことが多く、その他には喉のかゆみ・皮膚のかゆみ・下痢・微熱などの症状が現れる場合もあります。
人間の体は、「花粉」という異物が侵入すると、排除するために花粉に反応する「抗体」という物質を作ります。抗体ができた後、花粉が再び体内に入ると、鼻や目の粘膜にある「肥満細胞」の表面にある抗体と結合します。肥満細胞から「ヒスタミン」などの神経伝達物質が分泌されると、「受容体」に結合してアレルギー反応を引き起こします。花粉症によるアレルギー症状は、花粉を体外に放出しようとする、体を防御する働きによって現れるのです。
花粉症の薬で眠くなる仕組み
花粉症治療薬の多くは、肥満細胞から放出されたヒスタミンが受容体に結合するのを妨げる「抗ヒスタミン薬」です。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの代わりに鼻や目の粘膜にあるヒスタミン受容体に結合します。その結果、ヒスタミンの働きが邪魔され、花粉症によるアレルギー症状を和らげてくれるのです。
ところで、ヒスタミン受容体は、花粉症の症状と関係のある部位だけでなく、筋肉・血管・脳などを含む全身に存在します。脳において、ヒスタミンは覚醒作用・興奮作用に関わっています。脳には血液脳関門と呼ばれる、脳を異物から守るバリアのような仕組みがあるのですが、抗ヒスタミン薬はこれを通過して脳内に入ってしまいます。そのため、抗ヒスタミン薬は脳のヒスタミン受容体に結合して、覚醒作用・興奮作用を弱め、眠気や集中力の低下を引き起こします。花粉症治療薬を飲むと、頭がぼーっとする・集中力が続かないといった状態になるのはこのためだったのです。
眠気は薬によって違う
花粉症治療薬として使用する抗ヒスタミン薬には、病院を受診して処方してもらう医療用医薬品と、薬局・薬店で購入することが可能な一般用医薬品を合わせると約10種類の成分があります。では、それらの成分にはどのような違いがあるのでしょうか。
眠気に焦点を当てて考えてみると、「脳内への入りやすさ(脳のバリアの通りやすさ)」と「脳内でヒスタミンの働きを邪魔する度合い」によって「眠気」に違いが現れると言えます。 それでは、眠気以外の副作用はどうかというと、全身のヒスタミン受容体への作用の違いが問題になります。そして、花粉症の症状に対する効果の違いは、鼻や目の粘膜にあるヒスタミン受容体への作用の違いによって現れるため、「効果が強いと眠気とその他の副作用も強い」ということにはならないのです。他にも、作用の持続時間や服用するタイミングの違いなど、薬によって特徴は様々です。花粉症治療薬の服用を検討している方は、医師または薬剤師に相談して、ご自身の症状と生活スタイルに合う薬を探してみて下さい。
花粉症の薬以外でも眠くなる
飲むと眠くなるのは花粉症の薬だけではありません。市販の風邪薬(いわゆる総合感冒薬)を飲んで眠くなった経験がある方もいるのではないでしょうか。
それは、風邪薬に、風邪の諸症状を和らげるための複数の成分が含まれていて、抗ヒスタミン薬がそのうちの1つだからです。アレルギー症状がそれほど強くなく、眠気が心配な場合には、抗ヒスタミン薬を含有していない風邪薬を購入するのが良いでしょう。
また、医療用医薬品の中にも眠気が起こりやすい薬があり、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗てんかん薬などが挙げられます。これらの薬には、それぞれ主なターゲットとしている受容体があるのですが、目的以外の受容体にも結合することがあり、ヒスタミン受容体もその1つです。そのため、花粉症治療薬や風邪薬と同様に、飲むと眠くなることがあるのです。
昼間に眠くなってしまったら
眠くなる可能性がある薬の添付文書や説明書には「乗り物または機械類の運転操作をしないで下さい。」といったことが書かれています。これは、眠い状態で集中力を必要とする作業を行うと、操作を誤って大きな事故につながる可能性があるためです。
では、昼間に眠くなってしまった場合には、どうしたら良いでしょうか。ガムを噛む・カフェインを摂る・仮眠を取るなど、気分転換になるようなことをしてみると良いかもしれません。
しかし、効果が1日中続く薬では、同じように1日を通して眠くなる可能性があります。このような対策だけでは、眠気を十分に防ぐことは難しいため、花粉症治療薬を飲んだら、機械類の操作を控える必要があるのです。
薬を飲んで眠くなるのが心配な方も、症状がつらい時には無理をせず、眠くなりにくい薬を選んで服用し、作業を避ける・休むことで、花粉症の季節を少しでも快適に過ごしましょう。
監修 総合東京病院 |
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