放射線治療は欧米ではがんの患者さんの3人に1人に使われているとされ、最近では広く国内でも普及してきています。がん以外への治療は比較的少ないですが、ケロイドの切除後の再発防止などに使われています。今回ご紹介するのは、がんとは全く違った不整脈に対しての放射線治療です。
ちょっとした不整脈(心臓の拍動リズムがみだれること)はだれでもあり、とくに治療を要するものではないものが大多数です。しかし、心筋梗塞や心筋症などに伴って発生する心室不整脈は、心室細動(血液を送り出す心室が、いわば痙攣して機能しなくなること)を誘発して危険な場合があります。このような患者さんの死亡率はたいへん高く、除細動器(最近普及しているAEDの超小型のもの)の埋め込みや、不整脈の発生源を特定し、その部分にカテーテルを使って熱で焼灼する治療などが行われます。しかし、カテーテルは心室の内部から操作するため、壁の厚い心室ではなかなか近くまで到達することができず、この心室不整脈治療の成功率は半分程度であり、少なからぬ方が病気により数年で死亡するといわれています。
そこで、最近外部から放射線を集中する心室性不整脈の治療が注目されています。放射線を狭い領域に集中する方法(SBRT、または定位放射線治療といわれます)は肺がん、肝臓がんその他多くの腫瘍に使われ、もともと日本で発展して世界に広まってきた技術です。このSBRTの技術を不整脈のカテーテルアブレーション治療のようにピンポン玉程度の狭い範囲に集中照射する、低侵襲放射線アブレーションが2017年に米国セントルイスのワシントン大学から発表されました(文献1:N Engl J Med . 2017 Dec 14;377(24):2325-2336.)。
カテーテル治療が不成功におわった、または極めて困難な心室頻拍患者5名に対して体外から照射し、全員で抑制効果がありました。その後彼らは同手法を用いて心室頻脈の患者19名に対する臨床試験を実施し、6ヶ月後の時点で18名の患者における極めて良好な抗不整脈効果(下図)とQOL(生活の質)の改善を報告しました(文献2:Circulation . 2019 Jan 15;139(3):313-321.)。
治療時間は平均15分であり、カテーテル治療がときに10時間にも及ぶのに対して、大変短い時間で楽に施行できています。一方で有害事象(副作用)については、19名のうち1名は放射線治療とは因果関係のない不慮の事故にて死亡し、因果関係が疑われる2名で心不全と心膜炎がありました。軽度のものでは一過性倦怠感・低血圧・めまい・呼吸困難・嘔気がそれぞれ1例(合計4例)、放射性肺臓炎2例、心嚢液貯留5例でした。
この様にこれまでに治療法がなかった方へは福音ともいえる画期的な治療ですが、まだ世界的に実施例が少なく、今後再発の可能性もあり厳密な評価が必要です。また放射線が心臓の血管に対して有害であることも知られており、長期的な副作用の可能性はあります。しかし、前に述べたようになにもしなければ数年以内に多くの方がなくなるので副作用とのバランスで考えることになるでしょう。 当面は他の治療で効果がない方に慎重におこなわれるべき、と考えます。
・本件に関する東海大学のニュースリリース
国内初となる体外放射線照射による難治性致死性心室不整脈の治療を実施 ~薬剤、カテーテルアブレーション、植込み型除細動器に次ぐ第4の治療法として期待~
参考文献
1) N Engl J Med
. 2017 Dec 14;377(24):2325-2336.
2) Circulation
. 2019 Jan 15;139(3):313-321.
監修 総合東京病院 放射線治療センター長 |
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