がんの治療は手術、新たな分子標的薬をふくむ抗がん剤、免疫療法などでおこなわれます。放射線治療は、欧米ではがん患者のうち60~65%に施行されていますが、日本では少なく30%弱程度です。欧米ではレントゲン博士やキューリー夫妻の時代からがん治療として放射線がつかわれていましたが、日本では戦後になって少しずつ導入されたことも普及が遅れた要因となっています。
現在でも患者にとっても一般の医師にとっても放射線治療の情報が不足しています。また、欧米ではがん患者さんは自分でも十分に勉強して、医師と相談しながら自分で決定するという考えですが、日本ではまだ医師まかせの場合も多く、極端にいえば最初に受診した診療科で「医師の望む治療法」を患者さんが選択している場合も多かったように思います。最初の段階で患者さんに十分に治療法の選択肢、内容が伝えられなければ、最適な治療が選ばれないこともありえます。最終的にどのような治療になるとしても、正確で十分な情報があった方が良いはずです。しかし診察した医師の考えに偏ることも、十分説明されないこともありえます。放射線治療の選択肢があれば放射線腫瘍医(放射線治療医)が別途説明した上で患者さんが選択するほうが、たとえどの治療法を選ぼうとも後悔しないでしょう。
多くの方は家や高価なものを購入する際にいくつも見てから決めると思いますが、命や今後の生活に大きく関わるがん治療については一人の医師まかせにする患者さんが多いのは残念です。がんの治療で一刻を争う場合は多くありません。複数の、それも違った診療科の医師の意見を聞いてみるのはたいへん重要ですし、現在では医師の間でも奨励されていますので遠慮する必要はまったくありません。
このコラム欄では最新の放射線治療についての情報を最近の権威ある医学論文より簡潔にまとめます。医学論文は世界中で毎年星の数ほど出版され、玉石混淆で中には相互に矛盾するものや内容が疑わしいものもあります。そこでインパクトファクターという論文の重要度に関連する指標の高い、臨床医学の超一流誌を中心に、患者さんに意義のある情報を紹介します。テーマは主に放射線治療に関係するもので、私の多少の思いいれから選択することもありますが、内容は偏ったものではないようにし、科学的根拠に基づいた事実を基に書いていくようにして患者さんの治療選択の役に立つようなものを目指します。またがんの診療に関わる医療者にとっても多少とも役に立つものになれば幸いです。科学性、客観性を求めると内容的には多少専門的になるのはご容赦ください。
また、ここで書けることはどうしても一般的なことになりますので個別の事柄については、当院でもおこなっていますが、それに限らず放射線治療医によるセカンドオピニオンなどを積極的に利用してください。
国枝 悦夫
*一部の記事には原論文の図を引用しています。また原文のままのこともあります。