3. 腰椎変性疾患

腰椎椎間板ヘルニアの立体模式図

図3-1 腰椎椎間板ヘルニアの立体模式図(左)と矢状断面図(右)

腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨と骨をつないでいる椎間板という軟骨が、椎間板の後ろにある脊柱管という神経を入れてある管の方にはみ出てしまう病気です(図3-1)。腰の神経は脚全体に分布していることから、ヘルニアが神経を圧迫し、脚の特定部位に痛みやしびれを生じます。痛みやしびれが生じる場所は、圧迫を受けた神経の支配領域に一致します。

腰椎椎間板ヘルニアで最も多いのは第4腰椎と第5腰椎間のヘルニアで、一般に第5腰神経の支配領域に一致して痛みとしびれを生じます図3-2, 3-4。腰椎椎間板ヘルニアで次に多いのは第5腰椎と第1仙椎間のヘルニアで、多くは第1仙骨神経の支配領域に一致して痛みとしびれを生じます図3-3, 3-5。症状がすすむと、痛みだけでなく、脚に力が入らない(筋力低下)、触った感覚が鈍い(知覚障害)といった症状もあり、おしっこがでにくいなどの排尿障害が起こることもあります。また、足の親指や足首を上に挙げることが困難になります。

腰椎椎間板ヘルニアの局在診断

図3-2 腰椎椎間板ヘルニアの局在診断
第4-5腰椎間ヘルニアでは第5腰神経が圧迫を受け、赤丸の部位に痛み、しびれを起こす。
第5腰椎-第1仙骨間ヘルニアでは青丸の部位に痛み、しびれを起こす。


少し専門的になりますが、腰椎椎間板ヘルニアは脱出部位により症状発現が異なります(図3-3)

第4/5椎間板ヘルニアの場合

①medial type(正中型):硬膜嚢を圧迫し、複数の神経根症状を呈し、馬尾神経症状を呈する。
②posterolateral type(後外側型)および③foraminal type(神経孔型):L5神経根を圧迫し、L5神経根症状を呈する。
④far-lateral(超外側型)あるいはextra foraminal type(椎間孔外側型):脊柱管外に脱出し、L4神経根を圧迫し、L4神経根症状を呈する。
尚、⑤L4/5椎間板ヘルニアが上方へ脱出するとL4神経根症状を呈し、同様に⑥L5/S1椎間板ヘルニアが上方へ脱出するとL5神経根症状を呈する。

腰椎椎間板ヘルニアの発現部位

図 3-3 硬膜嚢、神経根、椎間板、椎弓根部との位置関係を表した図
伊藤康信、中川洋:腰椎椎間板ヘルニア、脳神経外科臨床マニュアルIII第4版、脊椎脊髄疾患、端和夫編、2010、シュプリンガー・ジャパンより引用

椎間板ヘルニアの治療法

治療法は、非ステロイド性鎮痛剤などの薬物治療と、コルセット装具などによる安静治療が基本ですが、牽引治療などの理学療法が有効なこともあります。痛みが強い場合は、注射やブロック療法を行います。ほとんどの腰椎椎間板ヘルニアは、これらの保存的な治療で症状が軽快します。また、椎間板ヘルニアの中には、自然に吸収され、小さくなっていくものもあります。しかし、保存的治療では軽快せず、筋力低下が著しい場合、排尿障害がある場合、下肢痛が持続する場合などは、手術が考慮されます。

腰椎椎間板ヘルニアに対する手術は腰椎手術の中では基本的なものですが、決して初心者手術ではありません。生死にかかわる重大な医療事故例も報告されています。辻陽雄先生(富山医科薬科大学名誉教授)が述べているように、「基本的な術式であるが、経験を重ねれば重ねるほど千差万別の難しさのあるもので、初歩的な手術では決してありえない。」私もこれには全く同感です。

外科的適応

■ 相対的適応

  1. 数ヵ月の保存的療法が無効である。但し、10歳代は6ヵ月、9歳以下は少なくとも1年は経過観察する。
  2. 痛みはさほどでないが、麻痺が進行し、強いしびれを訴える。
  3. 根性痛の複数回の既往があり、保存的療法で完治が望めない。
  4. 下肢の強い運動麻痺(母趾背屈力低下、下垂足)
  5. 単一根性の間欠性跛行 intermittent claudication

■ 絶対的適応

  • 急性馬尾症候群 acute cauda equina syndrome
    下肢・会陰部の知覚障害、下肢の弛緩性麻痺、膀胱・直腸障害、インポテンス、坐骨神経痛
腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見

図3-4 腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見。
第4-5腰椎間にヘルニアがあり、神経を収納する硬膜嚢を前方から圧迫している。腰椎MRI矢状断面像(左)および横断面像(右)、T2強調像

腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見

図3-5 腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見。
第5腰椎-第1仙骨間にヘルニアがあり、神経を収納する硬膜嚢を前方から圧迫している。腰椎MRI矢状断面像(左)および横断面像(右)、T2強調像


脊椎・脊髄外科領域にも日帰り手術の波が押し寄せ、腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術が盛んに行われるようになってきました。さらに、テレビモニター上で2次元観察しかできない内視鏡手術の大きな欠点(すなわち、立体観察ができない)を補うべく、筒型開創器(tubular retractor)を利用した顕微鏡下手術(図3-6~3-10)が始まり、当部門でも平成16年より導入しました。この低侵襲手術法の結果、従来の顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術よりさらに入院期間の短縮、創部痛の軽減が可能となっています。さらに、従来からのCASPAR開創器より小型のPiccolino(図3-11~3-13)開窓術が開発され、Quadrant開創器と同等の処理が可能になっています。

チュブラーレトラクターを利用した顕微鏡下手術

図3-6筒型開創器(チュブラーレトラクターtubular retractor)を利用した顕微鏡下手術

腰椎椎間板ヘルニアに対する顕微鏡下手術

図3-7 Quadrant® retractorおよびMETRx-MD® system(Medtronic)による腰椎椎間板ヘルニアに対する顕微鏡下手術

腰椎椎間板ヘルニアに対する顕微鏡下手術

図3-8 Quadrant® retractor(dilator抜去後)およびMETRx-MD® system(Medtronic)による腰椎椎間板ヘルニアに対する顕微鏡下手術

顕微鏡下での対坐手術

図3-9 Quadrant® retractorによる顕微鏡下での対坐手術(duo-scope microsurgery)

顕微鏡手術下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の手順

図3-10 Quadrant retractor による顕微鏡手術下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の手順
伊藤康信、中川洋:腰椎椎間板ヘルニア、脳神経外科臨床マニュアルIII第4版、脊椎脊髄疾患、端和夫編、2010、シュプリンガー・ジャパンより引用

小型の開創器(Piccolino retractor)

図3-11 従来からのCASPAR開創器と比較して、より小型の開創器(Piccolino retractor)も導入されている

椎間板ヘルニアの腰椎MRI像

図3-12 36歳・女性。右L5-S1椎間板ヘルニアの腰椎MRI像(右:矢状断面、左:横断面)

Piccolino開創器を使用した手術例

図3-13 Piccolino開創器を使用した手術例。図3-12の術中顕微鏡写真。ヘルニア摘出前は右S1神経根が手前に挙上され、扁平化しているが、ヘルニア摘出後は元の位置にもどり、丸みを帯びるようになり、除圧が達成されている

脳神経外科医による脊椎・脊髄外科

脳神経外科、略して脳外科という名称は実は日本でのみ通用する名称です。欧米では神経外科(Neurosurgery)と言われます。この名称を反映してか、日本における脳外科は脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷など脳疾患だけを扱い、背骨の病気は整形外科が担当すると誤解されています。一方、脳のつかない神経内科という名称にはだれも違和感は抱きません。

腰椎椎間板ヘルニアは坐骨神経痛の最も多い原因です。この発生機序を臨床的に初めて解明したのはアメリカ・マサチューセッツ総合病院神経外科の初代チーフであるMixterで、1934年にNew England Journal of Medicineという学術雑誌に報告しています。この時のヘルニア摘出術は椎弓切除と経硬膜アプローチで行われ、侵襲の大きいものでした。現在、ラブ法と呼ばれ広く知られている椎弓間・硬膜外アプローチでの椎間板ヘルニア摘出術の基本的手技を確立したのはアメリカ・メイヨークリニックの神経外科医であるLoveで、1938年にJAMAという学術雑誌に発表しています。手術用顕微鏡を使用した腰椎椎間板ヘルニア摘出術を最初に実施したのは顕微鏡手術の父と言われているスイス・チューリッヒ大学神経外科元教授のYasargilです。

このような歴史的背景から、欧米の神経外科での脊椎・脊髄手術が占める割合は手術全体の60-70%を占めます。お隣韓国でも脊椎・脊髄外科診療を担当するのは神経外科医が中心で、脊椎・脊髄手術の占める割合は欧米よりさらに高いと言われています。遡ること朝鮮戦争の時に、アメリカ軍医の指導による脊椎・脊髄外科治療がそのまま定着した歴史的経緯があります。当院脳神経外科のように脊椎・脊髄外科に取り組む脳神経外科医は増えてきています。脳神経外科医のお家芸である手術用顕微鏡を使用することにより、より低侵襲的外科的手術が可能になっています。

直立での歩行継続が困難で、しゃがみこんで前かがみになることで回復することを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。原因別に馬尾性(ばびせい)、末梢性(まっしょうせい)、脊髄性(せきずいせい)に分類されますが、前2者が多く、脊髄の血管奇形などが原因の脊髄性はまれです。

腰部脊柱管狭窄症の模式図と腰椎MRI

図3-14 腰部脊柱管狭窄症の模式図(左)と腰椎MRI(右)。L4-5間で硬膜嚢の狭小化がみられる

腰部脊柱管狭窄症例

図3-15 腰部脊柱管狭窄症例
a:腰部脊柱管狭窄症のMRI。第4/5腰椎間レベルで馬尾(神経の束)の圧迫(←)がみられる。
b:aと同じ患者さんの脊髄造影正面像。矢印間で馬尾の圧迫がみられる。
c:腰部脊柱管狭窄症の脊髄造影正面像。白い造影剤が第4/5腰椎間(→←)でブロックされ、下方が造影されず、矢印間で強い神経圧迫の存在が示唆される

馬尾性は腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)によって起こります(図3-14~3-15)。脊髄が入っている背骨の管(脊柱管)が狭くなり、脊髄から枝分かれした神経の束(馬のしっぽに似ていることから馬尾と言われる)が潰されることを指します。加齢現象に伴い、脊柱管を構成する椎間板、椎間関節、黄色靭帯などに退行性変化(膨隆・肥厚)が生じ、結果として硬膜嚢、馬尾神経、腰髄神経根が圧迫される病態です。お尻から脚の後ろ側にかけてのしびれのために歩行困難となり、しゃがみこむか、立ったまま前かがみ姿勢をとると改善します。路上でシルバーカーを押しながら腰を前かがみにして歩いている高齢者をみかけることがありますが、腰部脊柱管狭窄症の実例です。末梢性は下肢の動脈の血流不全によって起こり、多くはふくらはぎの痛みのため歩行困難となります。末梢性間欠性跛行の治療は心臓血管外科、循環器内科で行われますので、専門医にご相談ください。

馬尾性間欠性跛行の治療は鎮痛剤、コルセット着用、神経ブロック療法などの保存的治療から開始されます。無効な場合に手術が考慮されます。

今日のように高齢者の一人暮らし、老齢夫婦だけの所帯の増加、そして同居世帯でも日中若い人が働きにでて日中放置される高齢者が増加しています。このような状況では少なくとも身の回りのことが自分でできて、自力移動ができなければ生活が成り立たない状況におかれています。当事者である高齢者も年のせいだからしょうがないと自分で納得し、かかりつけ医も同様なことを高齢者に言います。また、一般脳神経外科外来でみることが多い脳卒中後遺症をもつ患者さんにいたっては脳卒中後遺症による片麻痺と失語症などに加え、変形性腰椎症による腰痛と下肢痛の多重苦を強いられているのが現状です。適切な治療で勿論麻痺は回復しないまでも腰痛と下肢痛が軽減されるだけで、その高齢者のQOLは大幅に改善します。このような理念で我々は全身状態が許せる範囲で高齢者医療に積極的に取り組んでいます。脊椎・脊髄外科領域で最も多い手術症例はこのような腰椎変性疾患です。

手術は通常、腰椎開窓術(ようついかいそうじゅつ)(図3-16~3-18)といって術後の脊椎変形の進行を最小限にする方法が第一に選択されます。最近ではより体に負担の少ない手術が行われ、幅22mm前後の筒を神経がつぶれている部位に挿入し、内視鏡あるいは手術用顕微鏡で神経の圧迫をとる方法が開発され、入院期間の短縮と早期の社会復帰が図れるようになってきました。

 この分野では脊椎固定のための脊椎インストルメントの適正使用の是非が問題となります。脊椎外科領域では腰椎椎体間固定および椎弓根(ついきゅうこん)スクリュー (pedicle screw)固定という腰椎すべり症や腰椎不安定性病変対する手術が盛んに行われています。この手術で使用される脊椎インストルメントは高額で、医療費高騰の一因となっています。脊椎インストルメントを留置するためには腰椎支持組織に大きな侵襲を加えることになり、術後に耐えがたい腰痛をきたすことがあり、いわゆるFBSS (failed back surgery syndrome)の原因のひとつに挙げられます。顕微鏡下に低侵襲手術に心がけ、その結果として腰椎支持組織への侵襲が最小限に抑えられ、術後に腰椎の不安定性をきたすことが少ない。したがって、脊椎インストルメントによる固定が不要になる。すなわち、腰椎の不安定性と腰椎支持組織の温存とのバランスの取れる範囲内での手術侵襲に止めるか否かの違いです。基本的手術は開窓術で、強い不安定性が存在する場合に初めて腰椎椎体間固定および椎弓根スクリュー固定を選択するのが、基本的な治療方針と考えています。

腰部脊柱管狭窄症に対する顕微鏡下減圧手術法

図3-16 腰部脊柱管狭窄症に対する顕微鏡下減圧手術法(CASPAR retractor使用による)。片側アプローチによる両側椎弓切除術および両側黄色靱帯摘出術

腰部脊柱管狭窄症の術前術中写真

図3-17 腰部脊柱管狭窄症の術前(上)および術中(下)写真。
上:L3-4およびL4-5椎間レベルに強い狭窄所見がみられる。
下:黄色靱帯切除後の減圧された硬膜嚢

腰部脊柱管狭窄症の術前術中CT

図3-18 図3-17症例の術前(上)および術後(下)CT写真。術後脊柱管の拡大がみられる


腰椎すべり症とは背骨が前方にずれた状態で、腰椎変性すべり症と腰椎分離すべり症があり、両者ともに腰椎の変性が根底にあります。腰痛が主な症状ですが、坐骨神経痛や間欠性跛行の症状が現われることがあります。腰部や殿部が重苦しい・だるいような痛みで、痛みは激しい運動や作業後に現われますが、安静あるいは活動を控えると軽減することが多い。

 腰椎変性すべり症の好発部位は第4腰椎で、腰椎分離すべり症のような椎弓の分離はありません。加齢によって椎間板や椎間関節の変性が進み脊椎が緩んだ状態になって、第4腰椎の下関節突起部分が第5腰椎の上関節突起部分を少し乗り越えて前にずれることで脊柱管が狭く(脊柱管狭窄症)なって、腰痛などの症状が発現します。腰椎変性すべり症は女性の高齢者に好発し、腰痛が主な症状ですが、坐骨神経痛や間欠性跛行の症状が現われることがあります。脊椎の安定に大切な椎間関節が形態的に弱い人に多く起こりやすいとされています。

腰椎分離症は、腰椎の関節突起部に離断がある病態で、骨格の未発達な成長期におこる疲労骨折が原因です。腰椎分離症の好発年齢である10~15歳以降の発症は稀です。腰椎分離症の10~30%が腰椎分離すべり症を発症すると言われています。

腰椎分離すべり症の好発部位は第5腰椎で、椎弓の分離と椎体のすべりが認められます。若い頃は無症状ですが中高年になって腰痛の自覚症状が現れます。坐骨神経痛や間欠性跛行の症状が現われることがあります。
各種保存的治療が無効で、日常生活あるいは仕事に大きな支障をきたしている場合に外科的治療が考慮されます。

腰椎分離症の模式図

図3-19 腰椎分離症の模式図

腰椎椎間固定術

腰椎不安定性を伴う腰椎疾患に対して腰椎固定術が行われます。腰椎椎間固定法には5つの代表的な手法(図3-20)があります。

  1. 後方腰椎椎体間固定術PLIF(posterior lumbar interbody fusion)
  2. 経椎間孔椎体固定術TLIF(transforaminal lumbar interbody fusion)
  3. 超外側 / 外側腰椎椎体固定術 XLIF / LLIF(extreme lateral interbody fusion / lateral lumbar interbody fusion)
  4. 斜角腰椎椎間固定術 / 腸腰筋前方 OLIF / ATP(oblique lumbar interbody fusion / anterior to psoas)
  5. 前方椎体間固定術ALIF(anterior lumbar interbody fusion)

の5法です。通常、腰椎椎間固定術だけを単独で行うことは少なく、椎弓根スクリュー(pedicle screw)固定を追加します。

椎間固定のための腰椎に対する5つの主要手術アプローチ

図3-20 椎間固定のための腰椎に対する5つの主要手術アプローチ

Mobbs RJ, et al: Lumbar interbody fusion: Techniques, indications and comparison of interbody fusion options inclusing PLIF, TLIF, MI-TLIF, OLIF/ATP, LLIF and ALIF. J Spine Surg 1(1): 2-18, 2015.より引用



腰椎椎間固定術で使用する椎間ケージ

腰椎椎間固定術には各種椎間ケージが使用されています。椎間板摘出後、椎体間にPEEK製ケージ(図3-21)、チタンコートされたPEEK製ケージ(図3-23)などを挿入留置します。その後、椎弓根スクリューを挿入して椎体間の安定化を図ります。脊柱管の前後を固定することから初期固定性に優れ、早期離床および早期退院が可能です。当院で現在使用されている代表的なものを呈示します。

(1) TLIFあるいはPLIF用ケージ

PEEK製椎体間ケージ

図3-21 PEEK製椎体間ケージ(Capstone control PEEK, Medtronic)
左:PEEK自体はX線透過性で、tantalumマーカーによりX線イメージで位置確認が可能である。また、スペーサー内の骨移植を同定することができ、骨癒合の評価に役立つ。
このcapstone controlはinsert(中央)&rotate(右)techniqueにより挿入留置するタイプのもので、スペーサーは椎間腔内に留置後90度回転し、椎間腔高を開大し、腰椎アライメントの前彎矯正が可能である。PLIFおよびTLIF用である。このケージのメリットは椎間後方が狭小化したところでも挿入可能で、腰椎の生理的彎曲を再現でき、バックアウトの危険性が少ないことが挙げられる。


腰椎椎間固定術後の3D-CT

図3-22 術後の3D-CTの正面像(A)および側面像(B)

(2) TLIF用椎間ケージ

T-PALの挿入中および挿入後の模式図

図3-23 T-PAL(transforaminal posterior atraumatic lumbar cage system, DePuy Synthes社製)の挿入中および挿入後の模式図
ブーメラン式に後方片側から椎体前方に滑り込ませ留置する。ケージ内および周囲に自家骨を充填する。このケージは比較的大きいケージであるが、pivotおよびrailメカニズムにより挿入しやすく、骨癒合が期待できる。また、椎体の前方から中央部に留置させることから生理的前彎を再現しやすいことが挙げられる。



TLIF術後CT

図3-24 術後CTの横断面像(左)、矢状断面像(中央)、術後3D-CT側面像(右)


(3) OLIF用ケージ

TLIF術後3D-CT

図3-25 術後の3D-CTの正面像(A)および側面像(B)


OLIF用椎間ケージ

図3-26 OLIF用椎間ケージ
Clydedale PTC(pure titanium coating lateral lumbar interbody fusion cage)(Medtronic社製)、
前彎角6度 x 高さ10mm x 横50mm x 奥行18mm
中央のcontact holeに自家腸骨、骨髄液、人工骨(15%HA/85%beta-TCP)を充填し、移植する。


OLIF術後CTおよび3D-CT

図3-27 術後CT横断面像および3D-CT像。椎体の前方に留置されたOLIF用ケージ


低侵襲的脊椎固定手術MISS(minimally invasive spinal stabilization)の導入

私たちは、日本に導入されてまもない平成18年より、経皮的椎弓根スクリュー挿入固定法に取り組んできました。現在、この手法は低侵襲的脊椎手術MISS(minimally invasive spinal surgery)あるいは低侵襲的脊椎固定手術MISS(minimally invasive spinal stabilization)の代名詞となっています。


経皮的椎弓根スクリュー挿入固定法のrod

図3-28 左:CD HORIZON SEXTANT® ADVANCE Rod Insertion System(Medtronic社製)
中央:経皮的にrodを挿入している図
右:航海計器の六分儀(Sextant)


MISSの基本手技

従来、椎弓根スクリューを挿入するには背中の筋肉を広く開創することから、腰椎支持組織に大きな侵襲を加えることになり、術後に耐えがたい腰痛をきたすことがありました。新しい手法では、椎弓根スクリューは小さな開創部から経皮的に挿入し、椎弓根スクリューを連結するのも彎曲したロッドをやはり小さな開創部から経皮的にスイングさせるように挿入・設置します。最初のシステムは航海計器の六分儀になぞらえてSextant(Medtronic)と命名されました(図3-28)。脊椎外科手術の中で、大きな外科侵襲の代名詞であった後方腰椎椎体間固定および椎弓根スクリュー法がより低侵襲的に実施できるようになりました。術後の創部痛も従来法に比べて軽度です。

その後、各社から優れたシステムが随時開発されています。代表例(図3-29、3-30)を示します。

経皮的椎弓根スクリュー挿入法

図3-29 経皮的椎弓根スクリュー挿入法(Viper X-tab screw system, DePuy Synthesを使用)。
a-g:術中X線撮影側面像。h:正面像。
a:X線透視下に、内外筒からなる二重構造のニードル針を経皮的に穿刺し、椎弓根を貫通し、椎体内に挿入する。
b:内筒を抜き、細いK-wireを挿入留置後、外筒を抜去する。
c:次に至適な長さおよび径の中空の椎弓根スクリューをK-wireを介して椎弓根さらに椎体内に挿入し、K-wireを抜去後に、さらに挿入する。
d:経皮的に椎弓根スルリューが挿入留置された
e:同様な操作でL4、L5、S1椎体内に左右に椎弓根スクリューを挿入留置する。この際、各スクリュー挿入にはそれぞれ約15mmの皮膚切開を要する。
f:L4椎体に挿入した皮膚切開から長さ65mmのロッドを挿入し、セットスクリューで締結した。
g:extension tabを摘出後の最終側面像。
h:extension tabを摘出後の最終正面像


経皮的椎弓根スクリュー挿入法の術後3D-CT

図3-30 経皮的椎弓根スクリュー挿入法(Viper X-tab screw system, DePuy Synthesを使用)によるL4-L5-S1後方固定の術後3D-CT像(左:正面像、右:側面像)


最近注目されているOLIFは骨を削らず、間接的に神経除圧を行う低侵襲手術

OLIFはoblique lumbar interbody fusionの略で、XLIF(extreme lateral interbody fusion)とともに脊椎外科分野において、近年、革命的な進歩をもたらした手術方法です。

腰部脊柱管狭窄症、特発性側彎症、腰椎変性すべり症、腰椎分離すべり症、腰椎変性側彎症、腰椎変性後彎症などの各種脊柱変形などの手術治療に関して、従来はPLIFやTLIFといった、後方からまず骨(椎弓)を削って神経の圧迫を取り、その上で神経をよけてさらに奥にある椎間板にケージというスペーサーを挿入する必要がありました。XLIFやOLIFという全く新しい手術手技では骨を削る必要がなく、側腹部(腹)からの小さな創で従来よりもはるかに大きなケージを挿入することが出来るようになりました。これまで大量の出血を伴う大手術であった高度脊柱変形の手術も、安全かつ低侵襲で行うことが出来るようになってきました。またケージも大きなものが入るため骨との接触面積が大きく、骨癒合しやすいこともメリットのひとつです。

OLIFおよびXLIFのメリットは、後方からアプローチするTLIFおよびPLIFと比較して、患者への負担がより少ない低侵襲であることが大きなメリットです。しかし、OLIFおよびXLIFにはそれぞれリスクが伴います。OLIFは尿管損傷、分節動脈損傷、逆行性射精、大腿部のしびれ・違和感などを併発する可能性があります。一方、XLIFには腸腰筋の操作、もしくは腸腰筋内を走行する脊髄神経への侵襲から術後27%の患者に股関節屈曲筋力低下など大腿から下腿に何らかの症状が出現すると報告され、リアルタイムの筋電図モニタリングを用いても術後62%の患者に何らかの下肢症状が報告されている。

OLIFは骨を削らない負担の少ない術式です。腰椎変性すべり症に対する手術の方法は多数ありますが、その多くは筋肉の多い背中側からアプローチするものです。このような後方アプローチでは、背骨から周囲の筋肉を剥離する操作が加わることから、筋肉の少ない前方アプローチに比べ、侵襲が大きくなるというデメリットがあります。
ここで紹介するOLIFとは前方アプローチにより腰椎が不安定になっている腰椎変性すべり症などの脊柱管狭窄を治療する非常に新しい術式です。

この手術では、腹部側から骨を固定するケージを挿れるため、背中側にある靭帯を除去する必要も,骨を削る必要もありません。また、腹部につくる傷は一か所4cmほどと小さいことも、この術式のメリットです。

OLIFは肥厚した靭帯を除去しなくても除圧できる術式です。脊柱管狭窄の原因となる靭帯の肥厚は、椎間板の変性により椎骨が不安定な状態になったときに、生体の防御反応として起こります。そのため、固定器具により骨のぐらつきを抑えることができれば、肥厚した靭帯は徐々に薄くなっていき、神経の圧迫は自然に改善していくのです。

OLIFの適応となる脊柱管狭窄とは、下肢の症状が軽度で、腰椎の不安定性が原因の腰痛が主症状である場合に、非常に有効です。一方、坐骨神経痛など、下肢の症状が強く現れている場合は、前述した拡大開窓術(かいそうじゅつ)あるいは腰椎後方椎体間固定術(PLIFあるいはTLIF)など、従来から用いられてきた一般的な脊柱菅狭窄症手術の適応となります。

以下、腰椎変性すべり症に対して腰椎椎間固定および椎弓根スクリュー固定を実施した代表例を呈示します。

OLIFの代表例(74歳、女性)  図3-31、3-32

6ヵ月来の腰痛および左下肢痛あり、内服治療ならびに神経ブロック治療受けるも効果なく、ADLに大きな支障きたしていた。腰椎MRI(図3-31、3-32)では第4-5腰椎レベルに不安定性を伴った狭窄所見あり。画像上狭窄所見は重度ではないことから、間接的除圧を目的にOLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を実施した。尚、(図3-31・右)は術前の造影後3D-CTで、OLIFは腹部側面からアプローチし、大腰筋の内縁(赤矢印)から椎体固定をすることから、尿管の位置を確認しておくことが重要である。

OLIF術前MRI精査

図3-31 術前MRI精査。矢状断面像(左)および横断面像(中央)でL4-L5レベルに硬膜嚢の中等度の狭窄がみられる。OLIFでは側腹部からアプローチし、大腰筋の内縁(赤矢印)から椎体固定をすることから、造影後3D-CT像で尿管および分節動脈の走行を確認しておくことが重要である。


OLIF術後CT横断面

OLIF術後3D-CT

図3-32 術後CT横断面(上図)、3D-CT(下図)、ケージ挿入図。
L4-5椎間前方にケージが挿入留置されている。それを上下より挟むように椎弓根スクリューで固定されている。
ここで,チタンコートされ、自家骨を充填したPEEK製スペーサーは大腰筋内側から挿入留置する。その後、経皮的に椎弓根スクリュー固定を行う。したがって、椎弓切除操作は必要ない。使用したケージはClydedale PTC(pure titanium coating lateral lumbar interbody fusion cage)(Medtronic社製)、前彎角6度 x 高さ10mm x 横50mm x 奥行18mm。中央のcontact holeに自家腸骨、骨髄液、人工骨(15%HA/85%beta-TCP)を充填。


TLIFの代表例1(46歳、女性) 図3-33、3-34

6ヵ月来の右下肢の強いしびれおよび痛みあり。また、立位保持で腰痛増強し、歩行困難も伴うようになった。腰椎単純X線撮影で、L4-5間に強い不安定性が認められた。家事および仕事に大きな支障をきたしていることから、L4-5レベルのTLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を計画した。


TLIF術前腰椎単純X線

図3-33 左:腰椎単純X線撮影で、L4-5椎間レベルに強い不安定性がみられる。自家骨を充填した椎間固定用のcapstone control(Medtronic社製)


TLIF術後3D-CT

図3-34 術後3D-CT。L4-5レベルのcapstone controlおよび椎弓根スクリュー。術後右下肢痛は消失した。
MRI:L4-5レベルの狭窄は改善している。


TLIFの代表例2(67歳、女性) 図3-35、3-36

3ヵ月来の強い腰痛と左下肢痛があり、立位保持および歩行困難となる。腰椎X線撮影側面像(左図)および腰椎MRI矢状断像(右図)で、第3-4腰椎および第L4-5腰椎レベルに狭窄を伴ったすべり症が認められる。仕事及び日常生活動作に大きな支障あり、TLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を実施した。


TLIF術前腰椎X線撮影

図3-35 術前腰椎X線撮影側面像(左)および術前腰椎MRI(右)。第3-4腰椎および第L4-5腰椎レベルに狭窄を伴ったすべり症が認められる。


TLIF術後CT

図3-36 術後CT(上図)および3D-CT(下図)。第3-4腰椎間および第4-5腰椎間の右側椎弓を一部切除し、黄色靱帯を摘出して硬膜嚢の除圧を行った。その後、椎間板を可及的に摘出して、スペーサーおよい自家骨を充填した。最後に、第3、4、5腰椎に椎弓根スクリューを経皮的に挿入し、腰椎後方固定を行った。術後、症状改善し、1週間で自宅退院した。


PLIFの代表例(63歳、女性) 図3-37、3-38

3ヵ月来の強い腰痛と左下肢痛あり、立位保持および歩行困難となる。家事、買物など日常生活動作に大きな支障きたしている。腰椎X線単純撮影(左図)では第4腰椎のグレード2の腰椎変性すべり症がみられ、不安定性も伴っている。腰椎MRI矢状断で同部に強い狭窄(矢印)が認められる。PLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を実施した。


PLIF術前腰椎X線および腰椎MRI

図3-37 術前腰椎X線撮影側面像(左)および腰椎MRI矢状断面像(右)
第4-5腰椎レベルにグレードⅡ度の強いすべり症がみられ、同部に強い狭窄所見が認められる(青矢印)。


PLIF術後CTおよび3D-CT

図3-38 術後CT横断面像(上図)および3D-CT(下図)。第4-5腰椎の両側からの開窓術を行い、椎間板腔内を掻爬し、左右からPEEK製スペーサー2個および自家骨を充填した。その後、第4および第5腰椎に経皮的に椎弓根スクリューを挿入し、腰椎後方固定を行った。


高齢者の腰椎すべり症に対する手術として有用なCortical bone trajectory(CBT)法

CBTは椎弓根スクリュー挿入法の新しい手法で、2009年Santoniら(Spine J 9:366-373, 2009)によって発表されました。従来からの方法と異なる点は、スクリューの刺入方向とサイズにあります。

従来法ではスクリューは外側から内側に向かって挿入し、スクリューは椎弓根から椎体内に広く設置されましたが、CBTでは内側から外側、尾側から頭側に向かって挿入し、スクリューは主に椎弓根部に設置されます。また、より短く、細い径のスクリューが使用されます(図3-39)。引き抜き強度では従来法と遜色ないと報告されてきています。その後、私たちがより低侵襲な方法に改変しました(伊藤康信、平野仁崇、沼澤真一、他:脳神経外科速報 23(10): 1146-1155, 2013)。通常1椎間の手術であれば、正中約4cmの切開で手術が可能です。南東北グループでは2012年5月1日より手技を取り入れています。

骨粗鬆症は椎弓根部より椎体部での進行が強く、高齢者でも椎弓根部は比較的骨密度が保たれていますが、CBT法は椎弓根部にスクリューを留置することから、特に高齢者の椎弓根スクリュー固定例には有用であろうと考えられています。私たちも70歳以上の例で使用しています。最長で術後3年が経過していますが、これまでにスクリューおよびスペーサーによるトラブルは発生していません。

椎弓根スクリュー挿入の従来法およびCBT法

図3-39 椎弓根スクリュー挿入の従来法(左)およびCBT法(右)。従来法ではスクリューは外側から内側に向かって挿入することから、術野の展開が大きくなるが、CBT法ではスクリューを内側から外側に向かって挿入することから、術野の展開が正中切開で済み、傍脊柱筋への侵襲が少なく、術後の回復が早い。


私たちは2方向からのX線透視下あるいは平成26年9月に完成したハイブリッド手術室で、MISSによるCBT法を実施しています (図3-40、3-41)

MISS-CBT法による椎弓根スクリュー挿入およびロッド留置までの手技

図3-40 MISS-CBT法による椎弓根スクリュー挿入およびロッド留置までの手技


腰椎変性すべり症例に対するCBT固定の術後3D-CT

図3-41 70代男性の腰椎変性すべり症例に対するCBT固定の術後3D-CT。使用器材はCapstone control(Medtronic)、Matrix 5.5 reduction screwおよびtransverse connector(DePuy Synthes)。