2. 頸椎変性疾患

頸椎症(変形性頸椎症、頚部脊椎症とも言う)(けいついしょう)cervical spondylosisは椎間板の退行性変性が原因で、椎間板ヘルニア、骨棘、後縦靱帯肥厚、黄色靱帯肥厚などの圧迫要素が発達する。脊髄圧迫による脊髄症(せきずいしょう)myelopathyと脊髄から枝分かれした神経の圧迫による神経根症(しんけいこんしょう)radiculopathyに分類される。

頸椎症性脊髄症の症状としては、箸がうまく使えない、書字が乱れる、上着のボタンのかけはずしがうまくできない、ポケットの中の小銭をつかみにくい、両手の握り開き動作が緩徐などの両手の巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)が挙げられる。また、歩行障害も加わり、歩行中、脚の運びがぎこちなく、とくにつま先がひっかかりやすく転倒しそうになることがある。このような症状が、滑って転倒して首をひねった後、あるいは交通事故後などに急に起こり、救急外来に搬送され、精密検査の結果、頸椎症性脊髄症と診断されることが多くみられる(図2-1)

頸椎症性脊髄症の頸椎MRI

図2-1 椎症性脊髄症の頸椎MRI(T2強調像、左:矢状断面像、右:横断面像)。
C4/5、C5/6椎間レベルに脊髄圧迫がみられる。とくにC5/6レベルでは脊髄内に高輝度領域が認められる。

頸椎症性神経根症では首のうしろの痛みで発症することが多く、その後、上肢痛あるいは手指のしびれが出現し、さらに脱力に進行する。「手の脱力感」は一見脊髄症状と誤認されがちですが、正しくは神経根症状です。脊髄症状における運動障害は両手の巧緻運動障害と痙性歩行障害です。一方、神経根症状はデルマトーム(皮膚支配領域)に一致した領域の上肢~手指のしびれ、痛み、そして筋力低下が主症状です。頸椎症を有する方は超高齢化社会を反映して潜在的に多くいることが推測される。また、日頃無症状でも転倒あるいは接触事故などの軽微な外傷を契機に四肢麻痺などを呈する「骨損傷のない頸髄損傷」に遭遇することがあり、このような例は根底に強い頸椎症が存在する。

治療はまずは安静、頸椎カラー、鎮痛剤などの保存的治療から開始する。多くは保存的治療で症状がかなり軽快する。脊髄症では手指の巧緻運動障害、歩行障害、膀胱・直腸障害など日常生活動作に大きな支障をきたす場合、神経根症では難治性の激しい上肢の痛み、脱力あるいは筋の萎縮を呈する場合などに手術的治療が考慮される。

保存的治療および手術的治療と並行して、頸椎の筋萎縮を防止するための維持療法が必要です。マッサージは確かに心地よいのですが、自分で運動しないと筋力はつきません。最も手軽にできる筋萎縮防止の方法を紹介します。頸椎の等尺性筋強化運動isometric stretching exercise(ISE)という方法で、前後屈、左右側屈、左右回旋に対して10秒間筋収縮を行い、各運動を3-10回、1日3-4回繰り返します(図2-2)

頸椎の等尺性筋強化運動(ISE)

図2-2 頸椎の等尺性筋強化運動(ISE)

手術

この分野の手術法はめざましい発達を遂げている。脊椎インストルメントというチタン製(図2-3)あるいはピークpolyetheretherketone(PEEK)製の人工椎間スペーサー(図2-4)、チタン製のプレート、スクリュー、ハイドロキシアパタイトhydroxyapatiteという骨の基質からなる物質などが使用され、術後早期の離床、退院、職場復帰に貢献している。

チタン製人工椎間スペーサー

図2-3 代表的な人工椎間スペーサーであるチタン製ケージ(M-cage®, Ammtec)

PEEK製人工椎間スペーサー

図2-4 代表的な人工椎間スペーサーであるPEEK製ケージ(ACIS®, DePuy Synthes)

脊髄症状が3椎間レベル以下で、前方要素が圧迫原因となり、頸椎X線撮影側面像の動態撮影(屈曲・正中・伸展位で撮影)で不安定性がある場合などは頸椎前方除圧固定術(けいついぜんぽうじょあつこていじゅつ)(図2-5~2-10)による前方アプローチが選択されます。顕微鏡下に椎間板摘出後、神経圧迫要素である骨棘をドリルで削開し、肥厚した後縦靱帯を露出・除去し、硬膜を露出展開し、減圧を終了します。

現在、固定用の脊椎インストルメントとして各種形状のチタン製あるいはPEEK製ケージが利用されています。ケージによる椎間固定は安全に確実な固定が可能で、1椎間の手術では術後数日での退院も可能です。従来、頸椎前方固定術で使用していた自家腸骨からの移植骨採取を必要としないことから、術後の腸骨採取部の痛みがありません。また、腸骨採取部近傍を通る外側大腿皮神経の損傷による大腿外側近位部の痛み・しびれ(Meralgia Parestheticaと言います)も術後に起こることはありません。

ケージは手術用顕微鏡下での操作が前提であることから、使用者は大半が脳神経外科医です。術後の後療法(頸椎カラー装着など)も短期間で済みます。但し、固定が強固なために、固定椎間の隣接上・下椎間に過度の負荷がかかり、不安定性を生ずることがあり、最近ではチタン製ケージの使用は2椎間までが妥当とされています。

頸椎症性脊髄症の模式図

図2-5 頸椎症性脊髄症に対するhigh speed drillによる骨棘の切削を示した模式図
Nakagawa H, Itoh Y, Matsuoka H, Mizuno J: Threaded cylindrical interbody cage fixation for cervical spondylosis and ossification of the posterior longitudinal ligament. Spine Surgery: Techniques, Complication Avoidance, and Management (3rd edition), Ed. EC Benzel, Elsevier, Philadelphia, 2012, p417-421.

頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術

図2-7 頸椎症性脊髄症(図2-1)に対する頸椎前方除圧固定術の手術所見。減圧後(図2-3)のチタン製ケージによる椎間固定(twin-cage fixation)

頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術

図2-6 頸椎症性脊髄症(図2-1)に対する頸椎前方除圧固定術の手術所見。
左:骨棘切削後に露出された肥厚した後縦靱帯。右:後縦靱帯切除後の硬膜嚢

チタン製ケージによる頸椎前方除圧固定術後の頸椎CT

図2-8 チタン製ケージ(M-cage®、Ammtec)による第4-5頸椎および第5-6頸椎レベルの頸椎前方除圧固定術後の頸椎単純X線撮影正面像(左)および側面像(右)

チタン製ケージによる頸椎前方除圧固定術後の頸椎CT

図2-9 チタン製ケージによる第4-5頸椎および第5-6頸椎レベルの頸椎前方除圧固定術後の頸椎CT矢状(右)断面(左)および横断面像(右)

頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術

図2-10 頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術の1例
第5-6頸椎レベル(上左)で強い脊髄圧迫を示す。
上右:椎間板ヘルニア摘出後の露出硬膜(術中写真)
中:チタン製ケージ(M-cage®,Ammtec)留置後の術中写真。
下:術後の頸椎単純X線撮影側面像(下左)および正面像(下右)


多椎間レベルの外科的治療

3椎間レベル以上の狭窄があり、不安定性がなく、頸椎の彎曲alignmentが前弯を維持されている場合、頸椎椎弓形成術(けいついついきゅうけいせいじゅつ)(図2-11)が一般に選択される。

頸椎椎弓形成術

図2-11 頸椎椎弓形成術の代表的な術式。
左:open-door manner: enlargement of spinal canal by the unilateral laminar hinge(平林法)
右:double-door manner: enlargement of spinal canal by the sagittal split of the spinal processes(黒川法)

頸椎症性脊髄症の頸椎MRI

図2-13 頸椎症性脊髄症の頸椎MRI(T2強調像)。
左:矢状断面像、右:横断面像

頸椎椎弓形成術の従来法は、後頸部の傍脊柱筋を広範に剥離展開したことから、術後、後頸部の筋萎縮をきたし、頑固な後頸部痛(axial pain)を起こすことが知られている。しかし、最新の傍脊柱筋を愛護的に扱う手術法(図2-12~2-19)ではこのような後頸部痛をきたすことが少なくなり、手術翌日から離床および歩行が可能です。

頸椎椎弓形成術

図2-12 最新の頸椎椎弓形成術。従来の手法と比較して格段に傍脊柱筋の損傷を抑えることが可能で、術後の後頸部痛が軽減する。


頸椎椎弓形成術

図2-14 頸椎椎弓形成術の術中所見。棘突起間にハイドロキシアパタイトスペーサー(APACERAM®、 Pentax)を留意固定

頸椎椎弓形成術後の頸椎CT

図2-15 頸椎椎弓形成術後の頸椎CT。棘突起間にハイドロキシアパタイト製スペーサーが留置固定されている

さらに、従来片開き式椎弓形成術(open-door manner: enlargement of spinal canal by the unilateral laminar hinge)用の椎弓スペーサーはハイドロキシアパタイトに限られていたが、近年専用のチタン製スペーサーが開発され、この手技および器材の採用により手術時間の大幅な短縮が達成されている(図2-16~2-19)

片開き式の頸椎椎弓形成術

図2-16 片開き式の頸椎椎弓形成術の術中写真。右側椎弓切除後、左側椎弓を蝶番として椎弓を挙上して脊柱管を拡大する。挙上した椎弓および外側塊間にチタン製スペーサー(centerpiece®、Medtronic)を留置し、ミニスクリューで固定する。

片開き式の頸椎椎弓形成術

図2-17 片開き式の頸椎椎弓形成術前(左)および術後(右)の頸椎MRI。脊髄の良好な除圧が達成されている。

片開き式の頸椎椎弓形成術後の頸椎3D-CT

図2-18 片開き式の頸椎椎弓形成術後の頸椎3D-CT(左:後方像、右:側面像)。右側椎弓切除後、左側椎弓を蝶番として椎弓を挙上して脊柱管を拡大する。挙上した椎弓および外側塊間にチタン製スペーサー(centerpiece®, Medtronic)を留置し、ミニスクリューで固定する。


片開き式頸椎椎弓形成術前後の頸椎CT

図2-19 片開き式頸椎椎弓形成術前後の頸椎CTの横断像。術後脊柱管内の拡大が達成されている。椎弓挙上部にチタン製スペーサー(centerpiece®, Medtronic)を留置し、ミニスクリューで固定されている。

多椎間レベルの狭窄所見があり、上肢および手のしびれ、痛みなど神経根症状が主症状の場合、頸椎椎弓形成術を実施すると、脊髄の後方偏移に伴う神経根の牽引(tethering)により、術前よりさらに神経根症状が増強することがあります。神経根症状が強い場合は、3椎間の頸椎前方除圧固定術を行うことがある(図2-20~2-22)

多椎間レベルの頸椎症性脊髄症のMRI

図2-20 多椎間レベルの頸椎症性脊髄症のMRI(左、中央)およびCT(右)所見

片開き式頸椎椎弓形成術後の頸椎単純X線

図2-22 図2-18症例の術後頸椎単純X線撮影(左、中央)および頸椎CT(右)

片開き式の頸椎椎弓形成術

図2-21 図2-18症例の術中所見。頸椎症性変化に応じた減圧術および各種インプラントが選択された。C4/5椎間にはPEEK製ケージ、C5/6椎間にはチタン製ケージをtwin cageで、C6/7椎間にはチタン製ケージをsingle cageで使用した。

頸椎椎間板ヘルニアの外科的治療

骨棘形成が軽度あるいは頸椎椎間板ヘルニア(図2-23)(椎間板の退行性変性に陥った椎間板が後方に脱出し、脊髄あるいは神経根を圧迫するもの)の場合、医療材料費の高騰を抑えることを目的としてボックスタイプのチタン製あるいはPEEK製ケージ(図2-24~2-25)による頸椎前方固定術が最近普及してきている。ケージの中には自家頸椎骨あるいはハイドロキシアパタイト・コラーゲン複合体のReFit®を充填する(図2-24)

頸椎椎間板ヘルニアの頸椎MRI

図2-23 C5-6レベルの頸椎椎間板ヘルニアの頸椎MRI(左:矢状断、中央:水平断)。術中所見(右図):ヘルニア摘出後の減圧後の硬膜。

頸椎用チタン製スペーサー

図2-24 頸椎用チタン製スペーサー(ACIS®、 DePuy Synthes)。
左:ハイドロキシアパタイト・コラーゲン複合体のReFit®(Hoya, Tokyo, Japan)を充填したスペーサー。右:C5-6椎間腔に挿入留置されたACIS

頸椎椎間板ヘルニアの術後頚椎XP

図2-25 術後頚椎XP
左:正面像、右:側面像
ACISがC5-6レベルに適正に留置されている。

椎体切除による外科的治療

頸椎椎体の変形が強く、神経圧迫要素になっている場合、頸椎の後彎変形が強い場合、あるいは頸部後縦靱帯骨化症の場合には椎体切除術(ついたいせつじょじゅつ)(vertebrectomyあるいはcorpectomy)を必要とする場合がある。従来、腸骨などの自家骨あるいはハイドロキシアパタイトを椎体切除部に移植したが、最近ではチタン製人工椎体(中に椎体切除で採取した自家頸椎骨を充填する)とチタン製プレートの併用による頸椎前方除圧固定術が行われる(図2-26~2-27)

頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術

図2-26 頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術
左:C5椎体切除後に露出された硬膜。
中央:自家頸椎骨を充填したチタン製人工椎体留置後に、使用したチタン製プレート(ZEPHIR®: Medtronic)。
右:頸椎前方除圧固定術後の頸椎CTの矢状断面像

頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術

図2-27 頸椎症性脊髄症に対する頸椎前方除圧固定術
上:C4、C5椎体切除後、自家頸椎骨を充填したチタン製人工椎体(Pyramesh®, Medtronic)。
下左:チタン製プレート(Atlantis vision®、Medtronic)の設置像。
下右:術後の頸椎CTの矢状断面像。


後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)ossification of posterior longitudinal ligament(OPLL)は、わが国では重要な脊髄症起因疾患のひとつです。脊椎椎体の後縁を連結し、脊柱のほぼ全長を縦走する後縦靱帯が骨化することにより、脊髄あるいは神経根の圧迫をきたした疾患です。

1960年月本が剖検例で確認し、1964年寺山らが「頸椎後縦靱帯骨化症」と命名した歴史的背景があります。頸椎後縦靱帯骨化症は40歳以上に好発し、日本人成人の1.6%にみられ、男性:女性=3:1と男性に多くみられるが、胸椎での頻度は0.8%で、女性に多い特徴がある。同一家族内発生率は23%で、一卵性双生児では85%にのぼる。

日本の発生率は2.1%と高く、韓国1.0%、台湾2.1%、中国1.6%、モンゴル1.8%、フィリピン1.5%と東南アジアにも比較的多発する。米国ではミネソタ州0.1%、ハワイ州0.6%、ニューヨーク0.7%、ユタ州1.3%で、多国籍の人口が多い州では比較的高い傾向にある。ヨーロッパではドイツ0.1%、イタリア1.7%で、欧米でも決して稀な疾患ではない。

形態分類では分節型(50.4%)、混合型(30.7%)、連続型(18.9%)に分類される(図2-28)。治療が困難なことがあり、難病(特定疾患)のひとつに指定され、医療費公費負担の対象疾患である。

頸椎後縦靱帯骨化症の形態分類

図2-28 頸椎後縦靱帯骨化症

頸椎後縦靱帯骨化症に対する治療は、頸椎症、頸椎椎間板ヘルニアおよび頸部脊柱管狭窄症などの頸椎変性疾患と同様で、保存的治療から開始する。後縦靱帯骨化は非常にゆっくり増大することから、症状発現時には骨化巣が非常に発達し、脊髄を強く圧迫変形していることがある。偶然に発見された無症状例では厳重に経過観察をする。しかし、脊髄症状を有し、進行性で、日常生活動作あるいは仕事上大きな支障をきたしている場合には手術的治療が考慮される。

頸椎後縦靱帯骨化巣は脊髄の前方に局在することから、頸椎前方除圧固定術が理想的な手術法と言える(図2-29~2-37)

分節型の頸椎後縦靱帯骨化症

図2-29 分節型の頸椎後縦靱帯骨化症の1例(左:頸椎MRI矢状断像、右:頸椎CT矢状断像)。C3-4およびC5-6椎間レベルで分節型OPLLが存在し、脊髄を強く圧迫している。分節型OPLLは頸椎前方除圧固定術の適応となりうる。

分節型の頸椎後縦靱帯骨化症

図2-30 図2-29と同症例。C3-4レベルのMRI(左)およびCT(右)横断面像。OPLLは脊柱管内を占拠し、脊髄を強く圧排扁平化している。

分節型の頸椎後縦靱帯骨化症

図2-31 図2-29と同症例の術中所見。
左:骨化した硬膜を浮遊させて脊髄の除圧を行った。
中央:C3-4椎間レベルに自家骨を充填したチタン製ケージ(直径14mm)を挿入固定した。
右:術中X線透視で、挿入留置したチタン製ケージは適正位置に留置されていることを確認した。

分節型の頸椎後縦靱帯骨化症の術後頸椎MRI

図2-32 図2-29と同症例の術後6ヵ月の頸椎MRI。
左:C3-4およびC5-6レベルの脊髄圧迫は除圧されている。
右上:C3-4レベルの横断面像。
右下:C5-6レベルの横断面像

頸椎後縦靱帯骨化症の頸椎X線

図2-33 頸椎後縦靱帯骨化症の頸椎X線撮影側面像(左)および頸椎MRI所見。C2からC5レベルにOPLLがみられ、強い脊髄圧迫を呈している。

頸椎後縦靱帯骨化症の頸椎CT

図2-34 図2-33症例の頸椎CT撮影側面像(左)および横断面像(右)

頸椎後縦靱帯骨化症の術後頸椎単純X線

図2-37 図2-33症例の術後頸椎単純X線撮影(左)、MRI(中)およびCT(右)

後縦靱帯骨化摘出後のチタン製人工椎体留置

図2-35 C3およびC4椎体を切除し、後縦靱帯骨化を摘出後、自家頸椎骨を充填したチタン製人工椎体(Pyramesh®, Medtronic)を留置した。

チタン製人工椎体の固定

図2-36 チタン製人工椎体留置後、チタン製プレート(Atlantis venture®, Medtronic)とスクリューで固定した。

しかし、頸椎前方除圧固定術は分節型を除き、椎体切除、椎体固定およびプレート固定が必要になり、手術難度が高まります。また、後縦靱帯骨化巣は時に硬膜と一塊化、すなわち、硬膜の骨化を伴うことがあります。したがって、骨化巣の摘出で硬膜欠損を生じ、髄液漏をきたします。

一昔前はこの髄液漏対策が困難で、術後に数日に亘るベッド上安静、スパイナルドレナージの留置が必要となりました。現在では吸収性ポリグリコール酸フェルト(NeoveilR, Gunze)およびフィブリン糊などの手術材料の発達により、術中の髄液漏コントロールが可能になってきました。しかし、頸椎前方除圧固定術では常に念頭におくべき合併症です。

連続型など広範囲に骨化が存在する例では、頸椎椎弓形成術が選択されます。観音開き式、片開き式など種々の方法があります。従来、棘突起正中割断による観音開き式を採用してきましたが、最近は片開き式の椎弓形成術(図2-38~2-41)を採用しています。傍脊柱筋を温存させた手技を採用していることから、早期離床および早期退院が可能です。

呼吸障害を伴った頸椎OPLL

図2-38 呼吸障害を伴った頸椎OPLLの1例。
右:術前頸椎MRI矢状断面像。
中:術前頸椎CT矢状断面像。C2レベルからC6レベルまでの広範なOPLLが存在し、強い脊柱管狭窄ならびに脊髄圧迫をきたしている。呼吸障害はC3-C5レベルの脊髄内に中枢を有する横隔膜神経の不全麻痺が影響していると考えられる。術後、脊柱管の相応の拡大が達成されている。

呼吸障害を伴った頸椎OPLL

図2-39 図2-38の症例の術中所見。C3-C6レベルの片開き式の椎弓形成術の最終像。挙上された椎弓および外側塊間にチタン製スペーサー(centerpiece®, Medtronic)を留置し、ミニスクリューで固定する。

呼吸障害を伴った頸椎OPLLの術後3D-CT

図2-41 図2-38の症例の術後3D-CT

呼吸障害を伴った頸椎OPLLの術後CT

図2-40 図2-38の症例の術後CT。
上段:術前CTの横断面像。
下段:術後CTの横断面像。脊柱管は台形の形状に拡大されている。